真珠の如く消えてしまえばいいのに。【鬼滅の刃】

32.出会った中で ページ34

人間時代の記憶が、鬼としての己に影響すると、鬼殺隊に入っていない頃の修行時代、育手の師範に教えてもらったことがある。


この私の目の前にいる十二鬼月の中で百年間不動の上弦を名乗っているコイツは、悔しいけれど私よりも遥かに強くて、私なんて赤子の手をひねるように、いとも簡単に殺せるはずなのに、


(……どうして殺さないんだろう)


上弦の参、猗窩座は私のことを忌々しく、如何にも私が嫌いです感出した目で見てくるが、何故か手加減してくるし殺そうともしない。

そもそも、私が自ら猗窩座に向かわなければあちら側から手を出してすら来ない。



───────女を喰っていない。



気配からも、彼の行動からも見て取れる姿。
最近なんてものじゃない。
コイツは、鬼になってから一度も女を喰っていない。



ヒュウ、と微かな呼吸音が夜の闇に響く。


[雪の呼吸 肆ノ型 雪崩彼岸]


試すように猗窩座を狙ってみるが、やはり猗窩座は血鬼術を使ってこない。
素手で受け止めてくる。

猗窩座は私の戦意喪失を狙っているのだろう。拳を刀の側面に向かわせ武器破損を試みるが、ギリギリで刀の側面をズラしてその手を斬る。


「……フン。前より少しは強くなったのか」


「いつまでもまともに上弦の相手を出来ないじゃ、柱として顔が上がらないから」


猗窩座が自分から私に向かってこないので、再び先に足を踏み出すのは私。




───────……鬼というのは、男より女の血肉を好む。


まず、鬼にされた者は自分と血が繋がっている家族を狙うことが多い。栄養価が高いからだ。

それと同じようなことで、どちらかといえば女の方が男よりも栄養が高いのだ。
女は子を産むことができるほどの栄養を蓄えているから。

時に男や赤子を好む風変わりな鬼も存在するが、たとえ子供であろうと、殆どの鬼は女を好んで喰らう。


なのに猗窩座は喰うどころか殺してさえいないのだ。これは異例中の異例。

私が今まで戦ってきた中で、このような鬼はいなかった。


(……そういえば)


猗窩座との接近戦をなんとか受けとめつつ、頭の中で記憶の紐を手繰り寄せるように探る。


(こういう見た目の人……見たことはないけど聞いたことはあるような……)


……何処だっけ。
何処で見たんだっけ。

あれは確か、私がずっと子供の時……


「考え事をする余裕があるなんて随分だな」


「ッ！！」


[壱ノ型 雪原株桃]


考えるのはあとだ。私は猗窩座に体を向け直した。

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