36.逃げないこと ページ38
翌日の午後二時。久しぶりに立つ星哉の家のインターホンの前で立ち尽くすこと早十分。
決心はつけてきたつもりだった。
……そう、“ つもり ” だった。
いざ家を前にすると、中々インターホンを押せなくなってしまった。
(どうする、鈴森Aよ……。ここで引いたら次はいつ帰ってこれるかわからへんのに……ていうかそもそもご家族は家にいるんか……？)
「───── Aちゃん？」
「っ！」
突然の声に思わず肩を震わせる。恐る恐る後ろを振り返ると、そこには案の定、星哉のお母さんがいた。
買い物帰りなんだろう。両手には重そうなエコバッグが掛けられている。
私はぺこりと頭を下げると、真っ直ぐお母さんの目を見た。
「……少し、お時間ええですか？」
お母さんは何かわかったように「どうぞ入って」と玄関を開けてくれた。
中は相変わらず変わっていなくて、シックで大人っぽい家具ばかりだった。
話をする前に星哉の仏壇に線香をあげて手を合わせる。
写真の中の星哉はこんなにも笑っているのに、もうその笑顔を見ることすら叶わないという事実が、また悲しかった。
仏壇から顔を上げるのと同時に紅茶の匂いが漂った。
「どうぞ」
お母さんが紅茶にクッキーを用意してくれたらしい。
こんなにも もてなしてもらっちゃっていいのだろうか……。かと言って断れる雰囲気でもなかったからそのまま椅子に腰かける。
暫くするとお母さんが何故か星の王子さまの本を机に置いて私の前に座った。
「元気にしてた？」
「ああ、はい……。稲荷崎、いい人ばっかりで」
「会うのは一年半ぶりよね。会わない間に随分と大人っぽくなっちゃって、綺麗になって。……星哉にも見せてあげたかったわ」
切なそうな微笑みで目を伏せるお母さんを見て居た堪れない気持ちになってしまう。
それでも、逃げないと決めたんだ。
「今日、ここに来たのは、話がしたかったんです。星哉のことで」
私は全部話した。
ずっと星哉が好きだったこと。
告白してフラれたこと。
その後、星哉が帰り道に事故に遭って亡くなったこと。
この一年半、私が星哉を殺したも同然だと思いながら生活し、そのくせに星哉を思い出すのがつらくてわざわざ兵庫の稲荷崎を受験したこと。
話し終えると、お母さんは柔らかい目で私を見て、
｢……知ってる｣
そう言った。
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昆布の神(プロフ) - ルナさん» 修正致しました。ご指摘ありがとうございました。 (2021年11月17日 15時) (
レス) id: aca7717c5b (このIDを非表示/違反報告)
ルナ - あの、37話の星裁のお母さんが「まあ、神社みたいな感じかな」と言っている場面があるんですけど、”感じ„が“漢字„になっていましたよ！ (2021年11月17日 0時) (レス) @page39 id: d2a92b36ce (このIDを非表示/違反報告)
昆布の神(プロフ) - 虹四葉さん» コメありですー！ 角名君いいよね……最高すぎる……。 (2021年3月31日 21時) (レス) id: aca7717c5b (このIDを非表示/違反報告)
虹四葉(プロフ) - もう神作よ…角名くんの言動が何もかも尊く見えるんだが…… (2021年3月31日 21時) (レス) id: 550a2fdb83 (このIDを非表示/違反報告)
昆布の神(プロフ) - 星猫さん» コメありです！ 合作！？ 是非ともお受けしたいです！ お誘いありがとうございます！ (2021年3月21日 20時) (レス) id: aca7717c5b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：昆布の神
| 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/u.php/hp/fullmoon721/
作成日時：2021年3月8日 23時
