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XVII ページ19

「元気な状態のままさ……あっけらかんと死んでいきたかった。Aに弱い状態の俺を見せたくなかった……」


光輝とは思えないような静かな声が、何故か先程の田中の面影と重なった。


「……好きな子に、かっこ(わり)ィ姿なんか見せたくないじゃん」


やっと聞けた光輝の本音。
なのに、全然嬉しくない。


「かっこ悪くなんてないじゃん……。
野球やってる姿も、真面目に勉強してる横顔も、風邪ひいた時の赤い顔も、弱ってる時も……死ぬのをわかってるのに、必死に生きて、人生を無駄にしないで……だから、だから私は……」


“好きだったのに”


なのに、どうして


「……ごめんA。だけど、しょうがないんだ。Aには、俺よりAを幸せに出来る良いヤツがいるからさ……ていうか俺が用意してやったからさ、感謝しろよな」


眉を下げて柔らかく光輝が笑う。
嫌だ。嫌だ。


「いや……」


耐えきれなくなって涙が溢れ出したのと同時に屋上の扉の奥の階段から誰かが駆け上がってくるような足音が聞こえた。


「……もう時間だから」


「やだ……!!ねえ」


「A」


私の言葉を遮って光輝が口を開く。
その口角は、表情は不自然に笑っていて、
ただ一言こう言った。


「愛してる」


そこから先はスローモーションのように思えた。
私の手が耐えきれなくなって、光輝の手がすり抜けて、光輝は笑ったまま私の涙と一緒に落ちていく。


ドンッ


下から耳を塞ぎたくなるような音と、突き刺さるような悲鳴が聞こえた。


私は立ち尽くして、斜め下を見ながら、風にスカートを揺れさせていた。
冷たい冬の北風が、私を外から内側へ押し戻すように殴ってくる。


「秋月!!」


田中の声が聞こえた。
星が散りばめられている夜空の中で。


私がずっと下を見つめていると、田中もやって来て下を見て絶句した。
当たり前か。こんなの見たら、誰だってそうなる。


『愛してる』


光輝の最期の言葉が、胸の奥底に浸透していく。
私も、私も愛してた。ずっと、ずっと何年も。
私にもせめて言わせてほしかったのに、
なんで置いていっちゃうの。

光輝。


「あ……あ、ああ」


もう止められなかった。
溢れだす涙がとめどなく。


「うああああ……!!!」


膝から崩れ落ちる。
神様はいつだって理不尽だ。

輝く夜空も私を、光輝を、この運命を嘲笑っているようにしか思えない。
背に田中の手の温もりを感じながら、私は声が枯れるまで泣き続けた。

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作品ジャンル:恋愛, オリジナル作品
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花恋(プロフ) - 泣きました!本当に感動しました。!本当に作者様すごいです! (2020年10月26日 19時) (レス) id: beb1340a63 (このIDを非表示/違反報告)
りんご昆布の神(プロフ) - 鸞鳥さん» そう言って頂けて嬉しいです!更新頑張ります! (2020年10月9日 16時) (レス) id: aca7717c5b (このIDを非表示/違反報告)
りんご昆布の神(プロフ) - 爽@三人娘。さん» ありがとうございます!ご期待に添えるように頑張ります! (2020年10月9日 16時) (レス) id: aca7717c5b (このIDを非表示/違反報告)
りんご昆布の神(プロフ) - 花蝶霞☆奏音さん» いつも、ありがとうございます!皆さんに面白いと思って貰えるような小説を心がけていきます! (2020年10月9日 16時) (レス) id: aca7717c5b (このIDを非表示/違反報告)
りんご昆布の神(プロフ) - りなりんさん» この作品に似合うcssだったので即お借りさせて頂きました笑 (2020年10月9日 16時) (レス) id: aca7717c5b (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:りんご昆布の神 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/fullmoon721/  
作成日時:2020年10月6日 15時

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