雨の世界のキミの色【鬼滅の刃】

雨の世界 IX ページ11

「そして、私の推測だと、Aさんは……」





＿＿＿＿＿＿＿＿


A 視点



前に住んでいた彼処は、他の人からすれば薄汚く、薄暗く居心地が悪いものだと思う。

だけど、私は決してそんな風には思わなかった。
寧ろ居心地が良かった。

湿った空気。
濡れた体。

違和感を感じるものではなかったし、あそこであの子を待つのも、特に苦では無かった。

苦だったのは、あの子は私の所へは来てくれないと気付いたあの時だけで。


確かに、つらい人生ではあった。
だけど住みやすい環境ではあったんだ。


……正直に言えば、ここは居心地があまり良くない。生きづらい。
雨が降っていないから。
真水では何か物足りないのだと思う。



なんとなく思う。
私は、きっと───────



……だから、だから私は

これから死ぬだけなんだ。
それはきっと、引き裂かれたあの子も同じこと




───────
？？？ 視点


ここから出たら死ぬ。
そう思うようになったのはいつからだっけ。

出ようと思えば出れる。
いつだって。
それでも出ないのは、出た先に待つのが“死”だとわかっているから。

生き物であれば、死ぬのは当然なはずなのに。


『まだ死にたくない』


なんて、心のどこかで思ってて、

薄汚く命乞いをして、

なのにあの子の幸せを願って、

だけどこの運命から抜け出したくて、逃げたくて、


……だけど逃げられない。

生きることができないから、
死を待つことしかできない。


私たちには『できない』ことしかない。
『できる』ことは死だけ。


……私が、私たちが、こんな体じゃなかったら、
普通の人生を歩めていたのに。

私たちが別れることだって、なかったのに＿＿＿＿




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時透 視点



「雨や水を養分として、生存することを可能にしているのではないでしょうか……」


それを聞いて、Aが元いた場所を思い出す。
雨がしきりに降り続けていた場所。
そして、まともな生活場所も確保されていなかったし、食料もあるようには見えなかった。

だとしたら、


「……水分さえ、あれば生きていける生命力を持っているのでしょう」


胡蝶さんが憐憫を目に映し出しながら、静かに言った。

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