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つめたくてあつい。32 ページ34

「ほんと、すたこらさっさと帰っちゃうんだからさ。早とちりすぎるんだよ。Aは」


「はい……すみません……」


公園のベンチに二人ですわり、夏の日差しを受けながら駄弁る。

六年前の夏、帰る寸前に無一郎に渡したのは、胡蝶蘭のネックレス。
前世で無一郎からプロポーズを受けた時に貰った大切な物だ。

まあそれが運良く無一郎の記憶に繋がってくれたらしい。


「追いかけたのに直ぐ帰っちゃうんだからさ」


「だって正直、既に無謀だと思ってたもん。
だから僅かな希望に縋る感じで渡しただけだったし。そんな都合良く記憶戻るだなんて思わないし……」


「Aの悪いところは、そうやって直ぐ諦めを感じるところ」


私が図星を突かれたのと同時に、無一郎が軽く私の頭を小突く。
言い返す言葉がございません。無一郎さま……。


「……まあ、なかなか記憶を思い出さなかったのは僕なんだけど。
もう大人になったし、故郷から出てきた」


空を見上げていた顔を私に向けて先程の言葉に付け足す。


「Aに会うために」


「え」


突然そんなことを言われては、照れないはずがなく、みるみる顔が熱くなっていった。


「顔赤いよ?」


「違っ、こっこれは、あの、その、
〜〜〜っあ、暑くて……!!」


手で必死に顔を隠す。
こうやって無一郎と話すのが久しぶりすぎて、もうどうやって対応すれば良いのか……

すると無一郎が私の手を優しく握る。


「Aは、俺のこと、まだ好きでいてくれる?」


その目の奥には、まるで後悔がつまっているかのようだった。
ねえ、神様。
私、後悔に苦しむ無一郎を救ってほしいって願ったのに……。

まあいいや。
今度は、


私が



「今も、これからも、ずっと好き……」


これだけは変わらない。
どんなに生まれ変わっても、
どんなに記憶が薄れても、

この感情だけは忘れない。忘れたくない。




お互いが引き寄せ合って体が密着する。

私の首元には、いつしかの胡蝶蘭のネックレスが夏の太陽に照らされていた。



「……もう二度と、離れないから」


氷で覆われていた私の中の花が溶けて、新たな美しい花が咲いていく。

……ああ、匂いがする。

夏の匂いが、

君の匂いが、




夏は君の匂いがする───────。








❦ℯꫛᎴ❧

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設定タグ:鬼滅の刃・現パロ , 時透無一郎 , 師範の願い   
作品ジャンル:恋愛
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諸刃 - 設定が素敵!ちょっと切ない恋のお話も好きです。「胡蝶蘭のネックレス」には感動して泣きました! (8月14日 18時) (レス) @page35 id: b434511ad8 (このIDを非表示/違反報告)
侑夏 - 「夏の日の願い」を読んで、他の皆は前世の記憶があるのに凄く切ないなと思いながら読んでいました。最後、無一郎が迎えに来てくれたという流れで、『思い出してくれて良かったな。』と思いました。まだまだ読み直そうと思います!!改めて、完結おめでとうございます! (2022年1月12日 15時) (レス) id: 04ca5b2a61 (このIDを非表示/違反報告)
侑夏 - 今日初めて読みました。まずは完結おめでとうございます!「師範の願い」からずっとカナエさんの願いを叶えようとする主人公が、凄く感動的でした!!そして、無一郎と結ばれていくという物語に号泣しました。 (2022年1月12日 15時) (レス) @page35 id: 04ca5b2a61 (このIDを非表示/違反報告)
アオ(プロフ) - 夜から読んでたら徹夜してました!本当に面白かったです!話の流れにそっているところがとても実物感があって、キスのところは50回くらい発狂しそうになりました!本当にありがとうございます!最高すぎました! (2020年8月4日 6時) (レス) id: 0202dd951f (このIDを非表示/違反報告)
りんりん(プロフ) - 遅くなりましたが、完結おめでとうございます。感動でした! (2020年7月29日 20時) (レス) id: b99d983c73 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:昆布の神 x他1人 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/fullmoon721/  
作成日時:2020年7月19日 15時

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