つめたくてあつい。24 ページ26
無一郎視点
物心ついた時から知っていた藤の花の髪飾り。
母のものかと思ったが、「違う」と言う。
じゃあ誰のものなのか。わからなかったけど、一つ心当たりがあった。
春が来る度、僕の頭の中にふらりと遊びに来る花のような女の子。
あの子によく似合う気がした。
……そして、A。
僕が探しているのは、たぶん君だ。
なのに、Aとは何処かで会ったことがある気がするのに、まったく何も思い出せない。
初めて出会った縁川で、Aの名前を聞いたこと。それが証拠だ。
Aを思い出せない。
そのことに異様なほどの罪悪感を感じる。
「A」
腕の中にやっと掴んだ彼女の名を呼ぶ。
「…………もう離れないで…………」
精一杯のわがままで、望みだった。
もう忘れたくない。
今、離れたらもう二度と……
下唇をギュッと噛む。
僕の中には、Aとの思い出は、何も無い。
✽.。.:*・゚ ✽.。.:*・゚ ✽.。.:*・゚ ✽.。.:*・゚
A視点
───────ただ、単調な日々が過ぎていく。
記憶も何も思い出せじまい。
夏休みも、もうすぐ終わる。
帰らないといけない。
『…………もう離れないで…………』
夏祭りに無一郎が零した言葉が再生される。
私も怖いよ。
離れたら、また君が私を忘れるんじゃないかって。
忘れないで。
覚えて。
私という存在に霞をまかないで。
色褪せないで。
開けた窓から風が吹き、カーテンと同時に蝶の髪飾りに施された藤の花が音を立てて揺れた。
また、夏の風が吹く。
夏は君の匂いがする。
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諸刃 - 設定が素敵!ちょっと切ない恋のお話も好きです。「胡蝶蘭のネックレス」には感動して泣きました! (8月14日 18時) (レス) @page35 id: b434511ad8 (このIDを非表示/違反報告)
侑夏 - 「夏の日の願い」を読んで、他の皆は前世の記憶があるのに凄く切ないなと思いながら読んでいました。最後、無一郎が迎えに来てくれたという流れで、『思い出してくれて良かったな。』と思いました。まだまだ読み直そうと思います!!改めて、完結おめでとうございます! (2022年1月12日 15時) (レス) id: 04ca5b2a61 (このIDを非表示/違反報告)
侑夏 - 今日初めて読みました。まずは完結おめでとうございます!「師範の願い」からずっとカナエさんの願いを叶えようとする主人公が、凄く感動的でした!!そして、無一郎と結ばれていくという物語に号泣しました。 (2022年1月12日 15時) (レス) @page35 id: 04ca5b2a61 (このIDを非表示/違反報告)
アオ(プロフ) - 夜から読んでたら徹夜してました!本当に面白かったです!話の流れにそっているところがとても実物感があって、キスのところは50回くらい発狂しそうになりました!本当にありがとうございます!最高すぎました! (2020年8月4日 6時) (レス) id: 0202dd951f (このIDを非表示/違反報告)
りんりん(プロフ) - 遅くなりましたが、完結おめでとうございます。感動でした! (2020年7月29日 20時) (レス) id: b99d983c73 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:昆布の神 x他1人 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/fullmoon721/
作成日時:2020年7月19日 15時