つめたくてあつい。17 ページ19
アキノさんは、寂しく悲しい瞳をしていた。
聞けば、アキノさんは少し下を俯く。
「……わたし、ね、柳さんとの若かった頃の記憶が無いのよ」
「え……」
突如飛び出してきたその一言のみでお二人が今までどれだけ傷つき、その度に乗り越えてきたその過去が見えたような気がした。
「ちょっとした事故でね、頭を強打して記憶喪失になっちゃって……」
柳さんのこと忘れちゃった、とポツリと流した。
淡々と告げているように見えてその声は震えている。
「私は全く知らないのに、他の人は中学生からの私の恋人だって言う。
ただ焦りばかりが募って、ただ罪悪感に塗れて、
大切な人を忘れる自分が憎くて……」
しかしアキノさんは俯かせていた顔を空に向かって上げた。
「それでも柳さんは、私のこと好きでいてくれた。
記憶は無くても、きっと私は柳さんのこと好きだった」
黄色く輝く瞳はいつしかアキノさんの涙でくすんでいた。
「だけど、だけどやっぱり柳さんといたはずの、もっともっと沢山の時間を見たいと思うのよ。
……だから、記憶があるって素敵だと思う。
前世の記憶も、幸せな過去があるなら……」
『幸せな過去』……。
涙を拭うアキノさんを見て再び思う。
やはり神様は残酷だと。
それでいて、現実を突きつけられるようだった。
忘れたくなかった、忘れたくない、忘れるはずがないとタカをくくっていた想いも、想い出も、
必ずいつかは色褪せてしまうのだと。
310人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「時透無一郎」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
諸刃 - 設定が素敵!ちょっと切ない恋のお話も好きです。「胡蝶蘭のネックレス」には感動して泣きました! (8月14日 18時) (レス) @page35 id: b434511ad8 (このIDを非表示/違反報告)
侑夏 - 「夏の日の願い」を読んで、他の皆は前世の記憶があるのに凄く切ないなと思いながら読んでいました。最後、無一郎が迎えに来てくれたという流れで、『思い出してくれて良かったな。』と思いました。まだまだ読み直そうと思います!!改めて、完結おめでとうございます! (2022年1月12日 15時) (レス) id: 04ca5b2a61 (このIDを非表示/違反報告)
侑夏 - 今日初めて読みました。まずは完結おめでとうございます!「師範の願い」からずっとカナエさんの願いを叶えようとする主人公が、凄く感動的でした!!そして、無一郎と結ばれていくという物語に号泣しました。 (2022年1月12日 15時) (レス) @page35 id: 04ca5b2a61 (このIDを非表示/違反報告)
アオ(プロフ) - 夜から読んでたら徹夜してました!本当に面白かったです!話の流れにそっているところがとても実物感があって、キスのところは50回くらい発狂しそうになりました!本当にありがとうございます!最高すぎました! (2020年8月4日 6時) (レス) id: 0202dd951f (このIDを非表示/違反報告)
りんりん(プロフ) - 遅くなりましたが、完結おめでとうございます。感動でした! (2020年7月29日 20時) (レス) id: b99d983c73 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:昆布の神 x他1人 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/fullmoon721/
作成日時:2020年7月19日 15時