つめたくてあつい。15 ページ17
「……懐かしい夢見たなあ」
眠い目を薄らと開け、窓の外の緑で溢れた綺麗な自然を見つめる。
僅かに開いた窓の隙間からは、いつの日かに愛する者と受けた夏のそよ風が吹いていた。
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ガラスのコップに注がれた麦茶の中で泳ぐ氷がカランと良い音をたてる。
コップの外側には水滴がついている。
「今日は一日ゆっくり過ごすのね」
カナエさんが、柔らかく優しい目で私を見た。
しのぶとカナヲは買い出しに出かけている。
「無一郎も今世じゃ、めっちゃ元気ってわけでも無いですし、毎日というのも心配なので……」
椅子に腰かけて麦茶を飲むと、当然のようにコップについた水滴が手のひらへ移動した。
「それで、どう?一週間くらい経ったけど、何か進展とかあるの?」
進展……かあ。
「特に、私のことを思い出す素振りも無いですね……」
たとえ、前世と同じような言葉を私に投げかけたとしても、無一郎にとって私を前世のように知っているわけではない。
「夏って悲しいですよね」
私は麦茶に鏡のように映る自分を見た。
───────思えば、私や無一郎にとってのつらいことは、夏に起こっていることが多い。
前世、夏の日に無一郎は双子のお兄さんの有一郎さんを鬼に殺された。
夏の日に私はカナエさんの仇である上弦の弐・童磨に大した傷も負わせられず逃げられた。
するとカナエさんが口を開いた。
「うーん……。でもA。私が思うにはね、
Aと無一郎君は……」
「おーい、カナエちゃん!すまねえが、手伝ってくれ!」
カナエさんの言葉をさえぎって家の奥から柳さんの声が聞こえた。
「はーい。ごめんねA。少しいってくるわね」
「はい」
頷くとカナエさんは家の奥へ消えていった。
私は椅子の背もたれに体重をかける。
今の会話を意外な人物に聞かれていたとも知らずに。
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諸刃 - 設定が素敵!ちょっと切ない恋のお話も好きです。「胡蝶蘭のネックレス」には感動して泣きました! (8月14日 18時) (レス) @page35 id: b434511ad8 (このIDを非表示/違反報告)
侑夏 - 「夏の日の願い」を読んで、他の皆は前世の記憶があるのに凄く切ないなと思いながら読んでいました。最後、無一郎が迎えに来てくれたという流れで、『思い出してくれて良かったな。』と思いました。まだまだ読み直そうと思います!!改めて、完結おめでとうございます! (2022年1月12日 15時) (レス) id: 04ca5b2a61 (このIDを非表示/違反報告)
侑夏 - 今日初めて読みました。まずは完結おめでとうございます!「師範の願い」からずっとカナエさんの願いを叶えようとする主人公が、凄く感動的でした!!そして、無一郎と結ばれていくという物語に号泣しました。 (2022年1月12日 15時) (レス) @page35 id: 04ca5b2a61 (このIDを非表示/違反報告)
アオ(プロフ) - 夜から読んでたら徹夜してました!本当に面白かったです!話の流れにそっているところがとても実物感があって、キスのところは50回くらい発狂しそうになりました!本当にありがとうございます!最高すぎました! (2020年8月4日 6時) (レス) id: 0202dd951f (このIDを非表示/違反報告)
りんりん(プロフ) - 遅くなりましたが、完結おめでとうございます。感動でした! (2020年7月29日 20時) (レス) id: b99d983c73 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:昆布の神 x他1人 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/fullmoon721/
作成日時:2020年7月19日 15時