師範の願い【時透無一郎】参

orchid １１８ ページ43

鬼となれば永遠の時を過ごせる。




この剣技を残し強くなれる。




全てのしがらみから解放される。



私は鬼となった。




しかしそれから数十年後年老いた縁壱と会った。



他の痣者は死んでいったのに何故お前は生きている。


年老いているはずなのに老衰もせず私を斬った。



あと一呼吸縁壱の寿命が長ければ負けていたのは私だった。



誰も…あの方でも縁壱には勝つことができなかった。

傷一つ付けられなかった。



何故だ？


何故いつもお前は私に惨めな思いをさせるのだ？





「憎い」





その一心で死んだ縁壱の遺体を斬り刻んだ。




すると縁壱の懐からは昔あげた笛が出てきた。









もうやめろ。




私はお前が嫌いだ。





自分の目から涙が溢れているなんて認めたくなかった。





お前の周囲にいる者は
お前に焦がれて手を伸ばし
もがき苦しむ以外の道はない。






消し炭になるまで




ああ…何も手に入れることができなかったな






家を捨て



妻子を捨て



人間であることを捨て



侍であるということも捨てたというのに








ここまでしても駄目なのか？


道を極めた者が行きつく場所は同じだと

お前は言った。




しかし私は辿り着けなかった。


お前と同じ世界を見ることは出来なかった。








何故私は何も残せない



何故私は何者にもなれない


何故私とお前はこれ程違う









私は一体何の為に生まれてきたのだ







教えてくれ縁壱。

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