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そう。なんとAちゃんは階段から落ち、腕を骨折してしまった。腕の骨が治るのに、大体三ヶ月はかかる。春高予選は十月で、今は八月下旬。どう足掻いたって春高予選には間に合わないだろう。



「ホラそんな泣くなって……」

「う゛うう」



顔をべちゃべちゃにするばかりのAちゃんの涙をティッシュで拭く瀬見さん。食堂は完全にお通夜モード。



「Aちゃんがあんなに泣くのも珍しい……」

「いつもはひとりで噛み締めてるタイプだからな」



大泣きするAちゃんを遠目に賢二郎と話す。

部活の中ではいちばん仲良しであろう五色も、さすがにこの状況で声をかける気にはなれないようで、顔を青くしてちょっと離れたところからAちゃんを見つめている。
というか、あんなことになった子に下手に声をかける方が恐ろしいし、英断だ。




「だっ、だって、じごとができないマネージャーなんてっ、ひぐっ、な゛んの価値が……」

「いや価値はあるから!」

「そんな悲しい言い方しないで!?」

「仕事ができないマ゛ネージャーはただのマネージャーじゃな゛いですか!!」




ジブリの某豚映画を借りた言い回しをして、せっかく涙が引き始めたのに、また号泣し始めるAちゃん。

階段から落ちた時に顔も怪我したらしく、右の頬骨のあたりにガーゼが当てられてテープで止められている。もう見ているだけで痛々しい……。



前に大平さんがAちゃんは巻き込まれやすいって言っていたけど、本当にその通りだ。だいたいAちゃんは悪くないのに、他の人に巻き込まれることが多い。

ただ、今回ばかりは別にどっちも悪くないけど。


選手の骨折も苦しいけど、マネージャーの骨折も考えものだ。できることなんて、一気に激減するだろう。



「み゛っ、みんなが大事な時なのに、こんなときばっがぁ……!」



口に出した瞬間、あと二ヶ月もないというところにまで迫った春高予選のことを鮮明に思い出したのか、いよいよ本格的に泣き出した。いや、最初から涙と鼻水は酷かったんだけど。


ただ、Aちゃんの主張もわかる。

ここ数年間、白鳥沢にマネージャーはいなかった。
そして今年入ってきてくれた、ただ一人のマネージャー。マネージャーが入って半年。もはやマネージャーがいる環境というものに慣れすぎている。

部員数が多いので、もちろん一年にも分担させているが、それでも彼女自身が負う仕事量はいちばん多い。

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作者名:昆布の神 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/fullmoon721/  
作成日時:2024年1月12日 2時

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