𓂃 𓈒𓏸137𓏸𓈒 𓂃 ページ44
*
川西 side
「今日葉山遅くね?」
午前八時五十分。
山形さんが時計を見てそう言った。
大平さんが「確かに……。何かあったのかな」と続ける。
海に行った時も言った通り、基本Aちゃんは時間に厳しいタイプで、本人によると五分以上の遅れは許せないらしい。あまり人を嫌っていそうなイメージは無いけど、時間にルーズな奴だったら嫌いになることもあるのだろうか。
人の好き嫌いがなければいい子だというわけでもないし、そういう人間くさいところも、見てみたいとは思う。
アップをしながら監督とコーチを待っていると、九時前に二人が体育館に入ってきた。おはようございますといつもの挨拶をして集合し、練習前のミーティング。
「出欠」
「葉山が来ていません」
監督の合図で牛島さんがそう言うと、監督とコーチは黙った。
ゴールデンウィークのとき、熱を出して部活を休んだことはあるが、そのときの反応とは違う。
「…………えー……葉山だが……」
斉藤先生がメガネをかけ直して、困ったように口を開いた。そのあとに続いた言葉は、誰もが予想していなかったこと。
「……さっき、びょ、病院送りになりました」
*
「Aちゃん……顔上げなヨ……。Aちゃんは悪くないんだからさぁ……。あと腕に負担いったらアレだし……」
天童さんがしゃがみこんでAちゃんの背中をさすった。
昼食休憩中にAちゃんは病院から戻ってきて、食堂に入ってくるなりいきなり土下座。烏野高校の武田先生(顔も知らない)に教わったと言うだけあって、とてもスムーズで美しい土下座だった。……って、そうではなく。
「ずみま゛ぜん……わだじ……私っ……」
「声やばいよ……」
「涙と鼻水拭いて……」
「ティッシュあるよ……」
珍しく泣き顔を晒して顔を上げたAちゃんを、上から天童さん、瀬見さん、大平さんを中心に励ましている。
実は今日の朝、地震が起こった。震度は3で、そこそこ大きかった。
そのとき階段にいたAちゃんは慌てて手すりにつかまったそうだが、近くにいた女子がバランスを崩して落ちそうになったらしい。
その子は全国常連の陸上部の部員で、彼女自身もスポーツ推薦で入学したチョコっとした有名人。
Aちゃんはその子のことを知っており、反射的にその子を庇った。その結果、なんと。
「腕っ、こ、骨折なんてっ、これからどうしたら。はぅ、春高予選に……間に合わな゛い゛っ……」
809人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:昆布の神 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/fullmoon721/
作成日時:2024年1月12日 2時