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「天童」
頃合いを見て釘を刺すと、天童は「はいよ」と肩を竦めて、ようやく引いた。天童も天童で、探るときはかなり頑固だな。その胸中の真実は、天童にしかわからないだろうけど。
「失礼します」
白布は険しい顔をしたまま踵を返した。外の空気に触れたかったのか、白布が体育館を出ていこうとすると丁度体育館に入ってきたAと鉢合わせていた。白布はAにどこか強引気味にボトルを渡すと、そのまま体育館を出ていってしまった。
Aはボトルと白布をそれぞれ二度見して、そのあと近くにいた工に、若干冷や汗を滲ませて「牛島さんに喧嘩売ったの？」と話しかけた。どうやら、工が若利に生意気を叩いたせいで白布がキレたと思っているらしい。工は「今日はまだ売ってないし！」と弁解した。いや、売るつもりなのかよ。
「……オイ、どうすんだよ。白布がAに素っ気なくなったら、Aいよいよ泣くぞ」
離れていく距離と、修復が難しくなる関係になる怖さを、Aは中学時代に痛いほど味わっている。
それを知っているから、俺達は極力Aに中学時代を想起させないような接し方を心がけてきた。
たかがマネージャー。されどマネージャー。部員のひとりで、仲間であることに変わりはない。何か悩みがあるのなら、それがAでなくたって、……誰にだって、寄り添いたいという気持ちはある。
「大丈夫でしょ。さっき煽ったから不機嫌になっただけで、頭冷えたらAちゃんにはいつも通りの態度とるよ」
「なんでそう思うんだよ」
「賢二郎だって、そんな大人気ないことするほど勝手じゃないでしょ」
「年齢は大人じゃないけどねー」と天童が言う。
……天童は白布のことをいろいろ見透かした上で煽っていたのか、それともただ単純に探りを入れただけなのか……。
「北斗さんの時さ、賢二郎ついてきたんだよ」
天童がどこか遠い目で言った。
北斗さんのとき。……確かに、白布はついてきた。その場のノリだったとはいえ、普段は他人の恋愛事情など毛ほども興味を持たないアイツが。
「べつに、賢二郎がAちゃんをラブの意味で好きだろうなんて本気で思ってないよ。なんかそういうのとは少し違う気がするし。でも賢二郎はやっぱり、薄らと
「まだなんかあんのかよ」
「たぶん、英太くんのことも気にしてるっぽいよね。Aちゃんは」
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作者名：昆布の神
| 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/u.php/hp/fullmoon721/
作成日時：2024年1月12日 2時
