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「はぁ……。髪濡らすつもりなかったのに」
髪が濡れると乾かすのが面倒だ。長いし、でもちゃんと乾かさないと髪痛むし。染めているから、乾かすのはなるべくちゃんとやりたい。
「……つーか葉山、水着ワンピだったらTシャツ着る必要なくね？」
金田一が少し遠慮がちにそう言うと、国見が「ホントだ、透けてる」とかぬかしやがった。デリカシーがない。
水着なんてべつに見られても恥ずかしくないからいいけど。
「だってメモ帳が持ち歩けな……」
胸に違和感を覚え、左胸を触ると、そこは妙に薄っぺらかった。私が貧乳だとか思った人は引っ込んでおいてほしい。
「メモ帳ない」
そう言うと、三人が同時にひとつ瞬きをした。
そして、バッと下を見ながら立ち上がる。
「探せ探せ！ まだ流されてねぇ！！」
「つーかお前海にまでメモ帳持ってきてんじゃねえよ！」
「国見が転ばせたのが悪いじゃん！」
「最初にやったの葉山と金田一だろ！」
「俺は葉山が催促するからやっただけだし！」
ぎゃあぎゃあと言い争いながら海の中を探す。
必死こいて探しているのに、昆布しか見つからない。ここがグアムだったら
「……あった！」
金田一が声を上げて、海の中からひとつ取り上げた。金田一の手に握られているのは、確かに私のメモ帳だった。
「これ？」
「あ、それ……！ ありがとう」
「読めんの？ 濡れたけど」
国見に言われてメモ帳を開いた。
ページめくりづらっ……。
「……ギリいける！ めっちゃ滲んでるけど」
「俺は悪くないからな」
親指を立てると国見が保険と言わんばかりに真顔で伝える。まあ、最初に仕掛けたのが私なのは事実だ。
すると今度は金田一が「葉山さ」と口を開いた。
「それそんなに必要か？ 変なこと色々メモってたけど、絶対人生で役立つ機会ないだろ」
金田一が変だと言っているのは、『長距離走は死にそうになってもあんまり死なない』とかのメモだろう。私は真面目に書いていたのだが、散々変だ変だと言われたやつ。アレは変なメモらしい。
でも、彼らには見せたことのないページが、あるから。
「……役に立ってほしいけどな。いつか」
メモ帳の濡れたページから、水滴がひとつ水面に落ちた。
落ちた水滴はあまりに少なく小さく、水が落ちた音は誰にも伝わることなく海水に混じって、知らないどこかへ旅に出た。
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作者名：昆布の神
| 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/u.php/hp/fullmoon721/
作成日時：2024年1月12日 2時
