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「……海来たけど、結局海に入らなかったなあ」
そう言うと、金田一が「じゃあ、ちょっと遊んでいくか？」と浅瀬に足を踏み入れた。
「次は、いつ会えるかわかんねーし」
「また会ってくれんの？」
「いつかな」
「じゃあ次は春高予選かな」
「……負けねー」
「国見は？」
浅瀬に足を踏み入れると、柔らかい砂と海水が足を包み込んだ。振り返ると、国見がポケットに手を突っ込んだまま少し離れた砂浜に立ち尽くしている。
「俺は……」
「海入らないの？」
「そっちかよ」
「何だと思ってた？」
苦手な笑顔をつくって、からかうようにそう言うと、国見は眠たげな目を開いて、そしてため息をついた。
「……あざと。ぶりっ子キャラじゃなかっただろ」
「この程度がぶりっ子とか、女の子に怒られるよ」
「入らない。元々そのつもりなかったし」
私と金田一が無言で国見を見つめると、国見が「なんだよその顔」と言ってきた。
「こいつ何のために海来たんだろうって……」
「思い出つくってくれないんだぁって……」
追い討ちをかけるように、「残念」とわざとらしく言うと、国見は今度は「はぁ〜」と深いため息をついた。
「……足な。足だけな。俺はこれ以上やらないからな」
そう言って、国見がジーンズをめくって浅瀬に入ってきた。三人並んで、砂浜には影ができる。……その名がつく人は、今ここにはいない。本当は、四人で歩いていたはずの道。
「何する？」
「決めてないのかよ。水のかけあいでもしてれば？」
「ソレ青春っぽいけどさ、海水って目の中入ったら痛くない？」
「それな」
塩分濃度が高いから、口の中に入ったらしょっぱいし、目の中に入ったら痛い。漫画でよくある水のかけあいを見て『痛くないのかな』と思ってしまうのは、私がひねくれているからだろうか。
「水鉄砲でもする？」
「ああ、手でやるやつ？」
「ソレ何が面白いんだよ」
「勝負しようよ。いちばん飛距離長かった人が勝ちね」
「ふーん……。まあいいけど」
「俺もいいぜ」
国見と金田一が承諾したところで、第一回セルフ水鉄砲非距離選手権が始まった。
「じゃあ国見からね」
「なんで俺から」
「センターにいるから」
今の並びは、左から金田一、国見、私。
センターにいるからというのはただのこじつけだが、私には国見に先にやらせたい理由があった。
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作者名：昆布の神
| 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/u.php/hp/fullmoon721/
作成日時：2024年1月12日 2時
