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A side
「でっ……」
もうすぐ夕方になるという手前、私達は足腰を痛めながらつくりあげた傑作をみんなで見上げた。
「できたあああああ！！」
「ウオオオオオ！！！」
数メートルはある巨大な砂のお城が完成。
喜びの咆哮をあげていると、周囲の観光客からも歓声と拍手が聞こえてくる。
「スゲー！」
「SNSにあげよー」
「砂のおしろでかいー！」
「でかいわね〜」
なんだろう。この、味わったことのない達成感。
「私達がMVPですね」
「僕達は観光産業に貢献した……！」
渡さんとグーサインをつくって互いの功績を称えていると、海の家のおじさんが「あっ」と声を上げた。
「高い波がくるから少し後ろ下がって！ 気をつけてねー」
素直に後ろに下がると、確かにいつもよりも少し高めの波が迫っていた。
(……あれ？)
(これまさか……)
ザバァァと波の音がなり、砂のお城の土台が波で覆い尽くされる。波が引いたかと思うと、その瞬間、土台からビルが倒壊したかのように砂のお城が崩壊した。
あまりの呆気なさに、みんなが真顔になり沈黙が訪れる。
「おしろくずれちゃったー」
「残念だったわね〜」
私は金田一の隣で崩れた城跡を見つめたのち、Tシャツの胸ポケットに入れていたメモ帳とペンを取り出した。
「……葉山なに書いてんの」
「…………“自然には敵わない”って」
＊
夕日が沈みかけている中、私はひとりで城跡前に体育座りしていた。
「感傷浸り？」
振り返ると、国見と金田一がいた。
三人で話すのは夏休み前以来だ。
「工くんは？」
「ウシワカと大食い勝負してたぞ」
砂のお城をつくることに熱中しすぎてお昼も食べていなかったため、今はみんな海の家でご飯を食べている。私もさっき食べたけど、現役運動部の胃袋には敵わない。
「……何時間もかけてつくったのにさ、あんなことある？」
「しかも下から見事に崩れ落ちたな」
「周囲の反応含めて、アレひとつの災害だったね」
私は立ち上がって、水着についた砂を手で払った。
日が沈みかけている。
どうして、沈みかけている太陽がいちばん赤いのだろう。
どうして、いなくなろうとする前にいちばん光輝こうとするのだろう。
わざわざ、人の脳に鮮烈に焼きつこうとするのだろう。
また、一日が終わる。過ぎた過去が遠のいて、新しい記憶が生まれて、その度に古い記憶を失っていく。
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作者名：昆布の神
| 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/u.php/hp/fullmoon721/
作成日時：2024年1月12日 2時
