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『葉山って死ぬの怖い？』
昔、葉山にそう訊いたことがあった。
何か深い意味だとか悩みだとか、そういうのがあったわけではなく、ただ単によくある話の話題として振ってみただけだ。
『怖くないかな、べつに』
『なんで？』
来世があるかもしれないから、とか、意外とスピリチュアルなことでも言うのかなと思っていると、葉山から飛び出してきたアンサーは予想の斜め上を行くものだった。
『死んだとしても、自分の運命がそこまでだったって割り切れるから』
＊
及川さんは雷が落ちたかのようにひと昔前の少女漫画のような顔をして黙り込んでしまった。いわゆる“恐ろしい子……！” ってやつだ。
及川さんが騒ぐのはいつものこと。しかしその騒ぎようが異質だったので、ビーチで遊んでいた人達がどうしたんだとやって来た。そして向かい合う白鳥沢を見て、すべてを察したような顔をする。岩泉さんなんて固まってるし。あの人もそんな反応することあるんだ……。
「いやでも納得がいかない！ ……わかった！ 勝負しよう！」
「何で？」
「ビーチバレーに決まってんでしょ。俺らバレー部だし」
「勝ったら？」
「昼食奢りで！」
「葉山は報酬に入れないんだ……」
「いやそれはさすがに可哀想でしょ」
まだギリ倫理感を残している及川さんがすんとした表情で言った。
当の葉山は、遠い目で天を仰いだのだった……。
＊
A side
「私のせいですか？ あの惨状は……」
「大丈夫。君が絡んでなくても、どうせ会ったら喧嘩するのがあの二校だから」
「もういい加減、接触禁止令とか出した方がいいんじゃ……」
「はは、そうかもね」
超必死な顔でビーチバレーをしているみんなを蚊帳の外から眺めていると、ビーチバレーに参加しなかった青城のリベロ、渡さんが話しかけてくれた。
なんで参加していないのか聞くと、実は最近足を捻挫したばかりで本調子ではないらしい。今日も海には来たものの海に入るつもりはなく、それでも遊びに来たのは、曰く「みんなと居るだけで楽しいから」とのこと。聖人だ。
「葉山さんは楽しい？ 白鳥沢」
「楽しいです」
運に恵まれていると思う。こんなにも口下手で愛想がないのに日々を楽しいと思えるのは、間違いなく周囲の人間のおかげだ。嫌な顔ひとつせず私を受け入れてくれた人達。中学のときから続く運。
でもいつかきっと、その運が尽きてどうしようもなく嫌な人間にも出会うのかもしれない。
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作者名：昆布の神
| 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/u.php/hp/fullmoon721/
作成日時：2024年1月12日 2時
