𓂃 𓈒𓏸112𓏸𓈒 𓂃 ページ19
*
「りんご飴って美味しいんですかね」
そう言うと、及川さんが「もしかして食べたことない?」と私を見て目を丸くした。他の部員達はそれぞれ自分が食べたいものを探しに行ったので、今は自由行動みたいな感じ。
「なんだかんだ食べたことないです。あんまり食で冒険できないっていうか……。いつも同じものチョイスしちゃって」
「なるほど? まあわからなくもないけどねー」
すると及川さんが向かい側にあったりんご飴の屋台に歩いていって、「おじちゃん、りんご飴ひとつー」と言った。
置いていくのもアレなので買い終わるのを待っていると、こっちに戻ってきた及川さんが少しだけ屈んで「はい」と私にりんご飴を差し出した。
「及川さんの奢りね」
「えっ、大丈夫ですよ」
「いいから。先輩からのプレゼントは受け取りなさい!」
そう言われ、「ありがとうございます」と結局そのりんご飴を受け取った。貰ったりんご飴を齧ると、それはそれは甘かった。
「……おいしい」
「でしょ?」
及川さんが優しく笑った。
入部したばかりの頃、私はどちらかというと岩泉さんのほうに懐いていて、少しだけ及川さんが苦手だった。
だけどあの人の言葉のひとつひとつは優しさに溢れていた。……だから。
「……ねえ、Aちゃん」
りんご飴を食べていると、及川さんが静かに口を開いた。
「チームメイト同士って、絶対仲良くないといけないかなぁ」
そう言われた瞬間、脳裏に
「及川さ__」
「ごめん。やっぱりなんでもない」
及川さんはケロッとした顔で、「そろそろ花火上がるねー。他の奴ら回収してこなきゃ」とわざとらしく言った。
……ああ、そうだ。
この時には既に、歯車はおかしくなっていたかもしれない。
だって、私達は____。
*
「A!」
目を開けると、そこはバスの中だった。
バスは停車していて、外を見ると学校だった。
また声の方を振り返ると、そこには瀬見さんがいた。
「着いたぞ。よく寝てたな」
……夢。ため息をつきたい気持ちを抑えて、私は立ち上がった。
「……何かあったか?」
何も言わない私に、瀬見さんが静かに訊いた。
優しいな。優しい人達ばかり。せめてみんな性悪なら、こんな心のわだかまりも解けるのに。
「……何もないです」
言えるのは、それだけ。
810人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:昆布の神 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/fullmoon721/
作成日時:2024年1月12日 2時