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「瀬見さんのも好きですよ」
Aが真顔でそう言った瞬間、一気に矛先が俺に向いた。いや、ちょ、待てよ。
「おい瀬見ィ!! おまっ、いつの間に……!」
「違う違う違う、誤解だっつーの!!」
三年生の部員に胸ぐらを掴まれたので必死に弁明する。
Aとはそんな関係じゃないし、ていうかAにそんな素振りなかったよな!? あれ!?
形容できない複雑な感情を回らせながらAの言動を思い返していると、ひとつ違和感のある部分が浮き出てきた。
「……アレ? A」
「はい」
「お前さ……『瀬見さん
噛み合わない会話にだんだんと嫌気がさしてきたのか、彼女は「……あの」と重たげに口を開いた。
「トスの話ですよね?」
「は?」
「ひ?」
「……トスの、話です」
それを聞き、瞬時に俺達の頭の中でAの発言が違う意味に変換されていく。
❌“白布さん(のこと)が好き”
⭕️“白布さん(のトス)が好き”
(そっちかよ____)
「あっ、おーい。葉山」
心の隅々までAに掻き乱された部員達が消沈していると、斉藤コーチが駆け足でやって来た。
「狢坂、まだ井闥山と試合やってたぞ。今行けばまだ間に合うかも。お前桐生見たがってただろ」
「えっ!? 行きます!」
普段からは考えられないほど、一気に頬を紅潮させたAがダッシュで別ブロックの狢坂VS井闥山のコートまで飛んでいった。
「それで……」
斉藤コーチがメガネをいじりながら苦笑いを浮かべる。
「この有様は……ツッコんでいいのか?」
四月のAに好きな人がいる事件(実際は兄貴)事件に続き、今回のAは白布が好き事件も、結局ただの勘違いに留まることとなり、あまりの早とちりとAの言葉足らずに心が乱されすぎて、誰もが消沈していた。
「賢二郎残念だったね。Aちゃん、ラブじゃないって」
「最初からそんなこと期待してませんでしたよ」
白布はそう言いながらジャージを羽織り、便所に行ってしまった。
*
白布 side
トイレに入ると、迷いなく個室にこもって用を足すわけでもなく、ただ手で口元を抑えた。
___『私は好きですよ』
目立たなくていい。いつもそう思ってやったきた。
なのに、どうして当たり前のようにそんな奴のプレーを『好き』と言えるのか。
「きっつ……」
触った自分の頬は、何故か少し熱かった気がする。
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作者名:昆布の神 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/fullmoon721/
作成日時:2024年1月12日 2時