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「瀬見さんのも好きですよ」


Aが真顔でそう言った瞬間、一気に矛先が俺に向いた。いや、ちょ、待てよ。



「おい瀬見ィ!! おまっ、いつの間に……!」

「違う違う違う、誤解だっつーの!!」



三年生の部員に胸ぐらを掴まれたので必死に弁明する。
Aとはそんな関係じゃないし、ていうかAにそんな素振りなかったよな!? あれ!?

形容できない複雑な感情を回らせながらAの言動を思い返していると、ひとつ違和感のある部分が浮き出てきた。



「……アレ? A」

「はい」

「お前さ……『瀬見さんのも(・・)好き』って言った……?」



噛み合わない会話にだんだんと嫌気がさしてきたのか、彼女は「……あの」と重たげに口を開いた。



「トスの話ですよね?」

「は?」

「ひ?」

「……トスの、話です」



それを聞き、瞬時に俺達の頭の中でAの発言が違う意味に変換されていく。


‪‪‪❌“白布さん(のこと)が好き”

⭕️“白布さん(のトス)が好き”



(そっちかよ____)



「あっ、おーい。葉山」



心の隅々までAに掻き乱された部員達が消沈していると、斉藤コーチが駆け足でやって来た。



「狢坂、まだ井闥山と試合やってたぞ。今行けばまだ間に合うかも。お前桐生見たがってただろ」

「えっ!? 行きます!」



普段からは考えられないほど、一気に頬を紅潮させたAがダッシュで別ブロックの狢坂VS井闥山のコートまで飛んでいった。



「それで……」



斉藤コーチがメガネをいじりながら苦笑いを浮かべる。



「この有様は……ツッコんでいいのか?」



四月のAに好きな人がいる事件(実際は兄貴)事件に続き、今回のAは白布が好き事件も、結局ただの勘違いに留まることとなり、あまりの早とちりとAの言葉足らずに心が乱されすぎて、誰もが消沈していた。



「賢二郎残念だったね。Aちゃん、ラブじゃないって」

「最初からそんなこと期待してませんでしたよ」



白布はそう言いながらジャージを羽織り、便所に行ってしまった。







白布 side



トイレに入ると、迷いなく個室にこもって用を足すわけでもなく、ただ手で口元を抑えた。


___『私は好きですよ』

目立たなくていい。いつもそう思ってやったきた。
なのに、どうして当たり前のようにそんな奴のプレーを『好き』と言えるのか。



「きっつ……」



触った自分の頬は、何故か少し熱かった気がする。

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作者名:昆布の神 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/fullmoon721/  
作成日時:2024年1月12日 2時

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