𓂃 𓈒𓏸95𓏸𓈒 𓂃 ページ2
*
「ただ……図太いように見えて相手に心をなかなか開かない難しい奴でな。勘違いされやすい奴なんやけど、一応裏では色んなこと考えながら生きとるから、そこは理解してやってな」
「……はい」
よく人のことを見ているんだ。
厳しいけれど、それだけじゃない優しさがよくわかる。
稲荷崎の主将は、私に言いたいことは言い終えたようで、今度は牛島さんと瀬見さんに目を向けた。
「稲荷崎主将の北です。うちのが本当にすんませんでした。次の試合はちゃんと相手するんで、よろしくお願いします」
高校三年生とは思えないほど礼儀正しい挨拶に、瀬見さんが頭を掻いて「あっ、いえいえ」とペコペコした。
「……ああ。こちらも、誠心誠意相手をさせてもらう」
牛島さんがそう言うと、北さんは「ありがとうございます」とまた軽く頭を下げてから稲荷崎のところへ戻っていった。
ようやくすべて終わり、どっと疲れが出てきた。
「瀬見さぁ〜ん、牛島さん……」
「おーよしよし」
よろよろと縋ると、瀬見さんが頭をぐしゃぐしゃと掻き回してきた。あ、この人モテる人だ。
「にしても……初めて見る人だったな。あれ主将なんだ？」
「稲荷崎は選手層が厚いからな。三年生でも今年初めて大会に出る選手は、少なからずいるだろう」
毎年全国大会に出てきた三年生も、北さんを知らないらしい。だけど、“知られていない”というのはひとつの武器になりうる。
北さんが去っていった道を、私はしばらく見つめていた。
＊
さて、なんやかんやあって白鳥沢VS稲荷崎の戦いが始まるわけだが、私にはひとつまだ気がかりなことがある。
＿＿＿『それに……』
前に白布さんが言いかけた言葉。
なにか嫌悪しているものを飲み込んだような。
しかし、白布さんを見ても今のところ何か心配があるようには見えない。
白布さんは頭もいいし冷静だから、私が白布さんを心配するというのは基本ないが、前に瀬見さんは白布さんのことを『短気』だと称していた。
正セッターを外されても白布さんを気にかけるのは、瀬見さんの器の広さに加え精神的に不安定に見える後輩が心配というのも、もしかしたらあるのかもしれない。
試合が始まり、梟谷に崖っぷちで勝利した高揚感、アドレナリンがまだ残っていたのか最初からエンジン全開で絶好調の白鳥沢が流れを掴んでいる。しかし。
「……あ」
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 810人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：昆布の神
| 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/u.php/hp/fullmoon721/
作成日時：2024年1月12日 2時
