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【第6章】新たな道 ページ36

*



結局、アカギは戻ってこなかった。

コウキとシンオウチャンピオンのシロナが、共に破れた世界の中に入っていったが、彼らは二人だけで帰ってきて、そこにアカギの姿はなかった。



___『……生まれた場所、生まれてから過ごした時間、話す言葉。みんな違う……。だけど隣にポケモンがいてくれたから、ポケモンがいることが嬉しいから、知らない人ともポケモンを戦わせたり、交換できる……』



シロナはそう言った。
だが、アカギはそれを黙れと一蹴してしまったらしい。



「……そんなもの、今まで幸せに生きてきたと思い込んでる人間のザレゴトだって」



ギンガ団のアジトに戻ってきたコウキが、目を伏せて言った。



「感じている怒りも憎しみも(いきどお)りも、不完全な心のせいだって言ってた」



怒り、憎しみ、憤り____。

それらはすべて、Aも感じたことがある。

吹雪の中にひとり置いていかれたとき、それに近い感情を抱いた。だから、ギンガ団の敵でありながら、国際警察に従順にならなかった。なれなかった。


しかしAは、そんな負の感情が、アカギの言う『不完全な世界』のせいだとは思わない。

Aは決して幸せな人生など歩んでこなかった。自分の今までの人生が幸せだったなんて冗談でも思えない。
それでも、『不完全な世界』でコウキという存在に出会ったことで、Aは新しい希望を見つけることができた。




「それで、アカギ様はどうした」



ボスのアカギがいなくなったというのに、サターンはどこか落ち着いているように見える。……否、そう見えるだけかもしれないが。



「必ず、あの破れた世界の謎を解き明かして完全な世界を創り出すって。それで、そのまま……どこに行ったかわからなくなった」



Aの目には、コウキは疲れているように見えた。

まだコウキは十歳。反社会的な組織に関わることも、目の前で人が消えることも、十歳の少年にはあまりに精神的に負担が大きい。

それを、Aは痛いほどによく知っている。



「…………そうか」



サターンは、もう何も言わなかった。


コウキがアジトに戻ってきたとき、サターンはコウキのことを見知った顔であるかのような目で見ていた。

サターンもポケモン勝負でコウキに敗れたことがあるのだろう。
世間が『世界を守った子供』と讃えるであろう少年に、サターンから言うことは、もう何も無いのだ。

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作者名:昆布の神 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/fullmoon721/  
作成日時:2023年1月26日 20時

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