fulfill

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【回想】渡辺 side


「やだぁ！！！」



なかなか良くならない体調。


仲の良かった同じ病室の皆が退院していく不安。



子供ながらに人より敏感だった俺は、
そんなストレスからかより一層体調は悪くなる一方だった。




山「翔太は何が嫌なの？」



「やなのぉ！！」



山「うん、おいで？」



「それもやだぁ！！！」




今思えば、何にも話さずただただ顔を真っ赤にする程力いっぱい嫌だ嫌だと繰り返すなんて、なんて医者泣かせだったんだろうな〜なんて思うけど。



山下先生は、俺に怒ることも、
山下先生自身が不安そうな顔をすることもなかった。



いつも、同じトーン、
いつも、同じ笑顔で。




山「おいでよ翔太、」



「…ん！」



山「ははっ、うん…大丈夫だよ」




不機嫌ながらも山下先生に手を伸ばせば、
いつも笑ってその手を取って、抱っこしてくれた。




山「翔太は頑張ってるよ、先生治してあげるからね」



「…」



山「早く治れ〜」




俺は、そう言われてもなんにも返事をしなかった。


なんなら半分くらいこいつ嘘つくじゃん、
いつも俺に痛いことすんじゃん、なんて思ってて。




…でも不安な時にいつもゆらゆらと抱っこしてくれて、めちゃくちゃ安心してた。





山下先生はそんな時いつもよく分からない鼻歌を歌ってくれたけど、俺はその歌は知らなくて。





山「翔太は先生のこと好き？」



「…すき、」



山「俺も好きだよ」




だから大丈夫なの、
絶対。







いつも点滴とか注射とかするし、
薬だって先生が増やすから。
特別好きじゃなかったけど。




抱っこしてもらったら、
俺は絶対先生の白衣から手を離さなかった。







山「眠いなら寝なよ」





「やなのぉ…」





山「嫌かぁ…」





沢山おしゃべりした訳じゃない。


でも今日は天気いいとか、

お昼ご飯翔太の好きなやつだと思うとか、




記憶の断片にあるのは、全て
俺を気にかけてくれてる山下先生の優しさだった。

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