ブリュレ (ページ5)

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#５悪趣味ページ5

「もしもし？ヒロさん？」

『あ、A』

「仕事、終わったん？」

『うん、さっき帰ってきてん』

スピーカーにしているのか、電話の向こうでは彼の生活音が流れてくる。

「そっか、電話どうしたん？」

『呑んでんの？』

「うん、メッセージ送ったやろ」

そう告げると、少し向こうでため息が聞こえた気がした。

『あぁ、見たけど。今日は来られへんの？』

「遅くなるかもしれへんし、ヒロさんやて疲れてるやろ？」

『…せやな、心配やから帰るときはタクシー使え。メッセージしろよ』

こういう時、少しオカンぽい。
たまに鬱陶しいと思う事もあるけど、心配されてるんだなと思うし、仮に将来結婚するなら目を瞑る所でもあるかもしれない。

「うん、分かった。じゃあね、おやすみ」

そう言って電話を切ると、後ろから聞き覚えのある声がした。

「今の、彼氏？」

" 電話どうしたん？ "

外へ出ると、Aの声がした。
誰かと電話してるのか。

邪魔しても悪いし、別に気になるわけやない。
ちょっと夜風に当たったら戻ろうと思っていた。

だが…

" 遅くなるかもしれへんし、ヒロさんやて疲れてるやろ？ "

その声で察した。

ヒロさん。これが噂の彼氏か。

また、初めて聞く後輩の " 恋人の前での姿 " になんだか覗き見してしまったような、変な背徳感が生まれた。

電話を切ったタイミングで、きっと俺に気付いてないだろうAに彼の事を聞いてみることにした。

「今の、彼氏？」

すると相当驚いたのか、肩をびくつかせてこちらを振り向いた。

「な…んや、リリーさん、驚かさんといてくださいよ……(笑)」

目を丸くさせて驚くAからは、まるで不審者に会ったくらいの警戒心が感じられた。

「ごめん…で？」

「…で？ってのは…」

「今の、電話が噂のヒロさん？」

そう聞くと、胸元で両手で握りしめていた携帯を持つ手に力が篭る。

「聞いてはったんですか？」

「わざとじゃないねん」

「いや…別にええんですけど、なんすか？」

「別に何もないけど。今日は会わへんねやと思って」

正直、掻き回すつもりはないが人の恋愛は気になる。
こればかりはしょうがない。

「毎日は会われへんでしょ…」

「タクシーで帰れって？」

「いや、まぁまぁ…そうですけど」

なんとなく、あの背徳感が快感に変わりそうな気がした。

「今日は送ってくわ」