ブリュレ (ページ3)

今日:3 hit、昨日:1 hit、合計:27,028 hit

#３好みページ3

「あ～おいし……」

思わずため息が溢れる。
そんな私を見るヒロさんは微笑ましそうにこう言う。

「ほんまにええ顔して食うよな、Aは」

「やってほんまに美味しいし…！」

「いつもありがとな。でも、その顔さえあればすぐグルメ番組とか来るんちゃう？(笑)」

彼はすごく私の仕事に肯定的で、背中を押してくれる。
漫才を観に来るのだってそうだ。
私が手売りのノルマを減らしたくて呼んでるわけではなく、彼が来たいと言ってくれた。

最初はそれは抵抗があった。
だってステージ上にいる私は恋人としての私じゃなくて、お笑い芸人としての私だから。

可愛くないし、ボケるし、スベる。

でもそれも彼は全て受け入れてくれた。

「今日はあの芸人さんらおったな？」

食べる手を止めて視線を上に上げながら「誰やったっけな…」と頭を捻る彼。

「えぇ？だれだれ？」

「えっとな、あの、去年とかM-1出とったやん、…」

「霜降り？」

「ちゃうちゃう、霜降りさんやったら分かるもん」

芸人さんの名前なんかスッと覚えるのに、珍しいと思いながら私も今日の出演者を思い出す。

「え～？…からし蓮根？ミルクボーイさん？」

「ちゃうな～……」

「アキナさん？」

「えぇ…なんやったっけ、あのあたおかの…」

「見取り図さんか！」

「そうや！そうそう！」

あたおかのキラーワードでやっと当たった。
にしても思い出し方が完全にアブなかったのは秘密にしておこう。

「あの人らほんまおもろいな～」

「ヒロさん、ああいうの好きなんや？」

「うん、おもろいと思うで」

なんか意外だった。

今まで私たちに対する「面白かった」というリアクションしかもらってこなかったのでこうして彼の好みを聞くのは初めてだった。

「A、そういえば明日朝早いの？」

「ん、明日…は午後からかな」

「そっか、そしたら食べたら風呂入ろ」

「うん」

全てが順調だった。