#１３ 冷戦 ページ13
それから10分もたたないうちに、以前写真で見かけた男前が来た。
「A」
彼女が一度だけ見せてくれた彼とのツーショット。
あんまり覚えてないけど、名前を呼ぶところからして彼だろう。
向こうからこちらへ来るのを確認してAを起こす。
「来たぞ、A」
ダルそうに上半身を起き上がらせて、周囲を見回すと彼の姿を見つけ手を伸ばす。
彼も慣れた手つきで彼女を椅子から立たせると、サッと乱れた髪を直す。
「飲み過ぎやって。ほら、歩けるか？」
「…うん、、ごめ、なさい。」
途切れ途切れ、彼女が名前を呼んだのは、
「リリーさん」
俺だった。
「いや、ええから。彼氏さんと帰り」
少し動揺する気持ちを抑えて、しっしっと払うように店の外へと促す。
彼はAの肩を抱いて、数歩歩き出すと一度こちらは向き直ってこう言った。
「Aが迷惑かけました、ありがとうございます」
一瞬、
一瞬睨まれた…気がした。
それでも俺は、蛇に睨まれた蛙。
喉が詰まって、身体が硬直した。
「…あ、あぁ。とんでもない……」
やっと絞り出したその声は背を向けた彼に届いているのか。
店を後にする2人を見つめてそれだけを思った。
途切れ途切れの記憶。
相方の樋口に無理やり起こされて、
リリーさんが「帰れるか？」って心配してくれて、
ヒロさんが迎えに来てくれて、
目が覚めると、朝だった。
シンプルなルームライトと、ほんのりとタバコの匂いが鼻を掠める。
隣から聞こえてくる寝息も含め、ここはヒロさんの部屋だ。
ヒロさんを起こさないようにベッドを抜けると、水を飲みにキッチンに立つ。
水を飲みながら、リビングに放られた自分のバッグから携帯を取り出す。
そこには昨日一緒だったスタッフさんや盛山さんの、「ライブありがとう、お疲れ様」と言った旨のLINEや、マネージャー、樋口、リリーさんらの心配するLINEがたくさん届いていた。
どこから返そうかと、しゃがんで考え込んでいると不意に身体に体重が掛かって前によろけた。
「A」
「ヒロさん、ごめん、起こした？」
掠れた声で私を呼ぶその声は、後ろから私の携帯を触ってある人とのトーク画面を開いた。
なんの変哲もない、先輩とのトーク画面。
「ねぇ、A…リリーってこいつ、なんなの」
続く (更新停止中)
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作者名：寿司太郎 | 作成日時：2020年5月18日 18時
