第三十四話 ページ36
「ああ〜水…水が飲みてえ。アシリパさん水ある？水ちょうだい？」
彼女をみると、何か皮でできた袋のようなものに入れられた水を飲んでいる。
「アシリパさん。ちょうだい？ねぇ…ちょうだい？アシリパさん、ちょ…すごいちからだ！！」
袋から引き離そうとしても全く離そうとしない。その綺麗な顔が引っ張られてすごう顔になったとしてもだ。ようやくもらったと思ったらもう川の中は空だった。
「杉元それはな『クヨイ』といって鹿の…ゲプッ膀胱で作った水袋なんだぞ」
彼はそれを聞くと地面に水袋をたたきつけた。
「知らねーよ！アイヌのうんちくぅ！」
「流石に口が…ウッこのままだと…川とか近くにないですかね？」
「無い。火を起こして飯盒で雪を溶かせばいいだろ」
「めんどくせえなぁ、雪を食べるか」
「やめろ！雪を溶かすのに体力を使うし体が冷える」
そう言われても辺りには木しかない。しょうがないので飯盒の準備をしようとしゃがむと、アシリパさんに声をかけられた。
「あ！杉元、ナマエ、いいものがあったぞ。サルナシの蔓だ。この蔓はすごく水を吸い上げる。この蔓を切ると…樹液が大量に出てくる」
実際に彼女がナイフで蔓を切ると、断面から樹液が滲み出てくる。雫が落ちるくらい水分があり、それを見た私たちは大層大喜びだ。
「ウオーッ水だぁっ！！」
「山で水を切らした時は代用になる」
「ちょうだい？アシリパさん？」
彼女を見ると、さっそく蔓にしゃぶりつき、先ほどと同じ光景が繰り広げられていた。
ようやく水を飲むことができ(杉元さんはまだ蔓にしゃぶりついてるが)、彼女が蔓で工作したものを受け取る。
「サルナシの蔓は他にも利用法がある。私が使ってるかんじきはサルナシの蔓で出来ている。サルナシの蔓は乾燥するととても軽くなる。ちゃんとしたものを作ると時間がかかるから、簡単なものを二人に作ってやる。無いよりはましだ」
「いえ、そんな助かります。これだけでも十分ありがたいです。」
受け取って実際にブーツに付けてみる。確かに足が雪に囚われなくなり、だいぶ歩きやすくなった。これで先ほどのように体力を奪われることも無いだろう。
「こりゃいいや。体重が分散されて沈みにくくなるのか」
「よし行くぞ杉元、ナマエ」
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作者名：ほほいほい | 作成日時：2021年8月26日 23時
