野上さんは天使ですか？6 (ページ33)

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君の名前ページ33

俺の少し前を歩く彼女は凄くご機嫌。それもそのはず。先程病院で主治医から声も完全に戻り芝居にも影響ないと言われ、最後の通院を終えその足で彼女の事務所に報告へ行くと、Aちゃんの退院後に撮影した写真集が“うえのがみ”フォトブックとなり発売日も次回のラジオで発表されるから、その取材を彼女の復帰が決まったらさせて欲しいと、ちょうど俺が明日取材を受ける雑誌からオファーが来てたらしく野田さんがウチのマネージャーと雑誌社に連絡したところ急遽俺の取材の後に追加されることになった

『ねぇ』
「ん？」
すっかり秋の色に変わった街の中、黒地に紅葉舞う着物姿のAちゃんがクルっと万遍の笑みで振り向くと、彼女の髪をふわっと揺らした風が俺の頬を撫でて金木犀の香りが届いた
『声が出なくてツラい時に1番近くで励ましてくれてありがとう。おかげでまたお芝居が出来る。マイク前に戻れる。なにより、ちゃんと大好きな人の名前が呼べる…ありがとう、翔君』
久しぶりに呼ばれた名前。可笑しいな…彼女以外にも下の名前で呼ぶ人は居るのに、数ヶ月ぶりに彼女が詰ることなく呼んでくれた事がこんなにも嬉しい
「…もーこの後仕事入ってるんだから泣かすのナシっ！」
『ふふふっwww』
Aちゃんに手を引かれる形で歩く街は1人で歩くよりゆっくりで。それだけで幸せに思う
彼女の復帰は来週収録のうえのがみで発表される。Aちゃんには内緒だけど野田さんにとある事情を説明して「彼女の復帰のお知らせは“うえのがみ”でさせて下さい」とお願いしていた。来週は梅さんがゲストの予定だったけど、さっき事務所で会った時全てを察したらしく「来週ゲストは俺じゃなくて上野だな」とニヤッと口角を上げた。本当梅さんイケメンだったわ…
『すっかり秋らしい気温になったね』
「もう流石に半袖1枚じゃ寒いわ」
『そろそろストール作ろうかなぁ〜』
「え、作れるの!?」
『上野A、特技はハンドメイド全般ですから。あ、でも縫い物めちゃめちゃ苦手だ』
「意外ww」
振り向いた彼女は得意げに笑い胸を張った
『翔と写ってる成人式の写真であたしが着けてるストールも、自分で編んだよ』
「マジか…流石だわ」
『スヌードなら3時間集中したら1本作れる』
「すご…」
『手芸用品店寄っていい？毛糸買いたい』
「いいよ」
家までの時間が少し伸びても嫌じゃないのは君と手を繋いで歩くのが好きだから。少し肌寒くなったけど、君と繋いだ手が熱を帯びて熱いくらい