十六夜の月 ページ6
「待って!!」
彼の声に煙草に伸ばした手を引っ込め振り返る
「あ、ごめん」
『…な、に?』
「いや…煙草待ってじゃなくて…ほら、月!」
少し慌てたような彼に言われて窓の外を見ると満月から少し欠けた月が雲の隙間から見えていた
『あ…いざよい』
「知ってたんだ?十六夜の月」
『むかし、すき、だった…きょく、の…たいとる、で…しらべた』
「なるほど…」
少し何かを考える表情を浮かべた彼を横目に、煙草を持ってベランダに出ると涼しい夜風がポニーテールを撫でた。この時期の夜風は気持ちいい…
『〜♪』
途切れ途切れのハミングで昔好きだった曲を歌う。好きだったグループの先輩に当たるグループの曲で、失恋ソングだけど…Vocalの男性が高めの声で歌うのが好きでよく聞いていた。自分は恋なんかしたこと無かったのに、昔からどっちかって言うと…失恋ソングとか悲しい恋の歌が好きで…男性Vocalの曲を自転車で通学中に翔ちゃんとハモってたっけ
もっとスムーズ声が出るようになったら気持ちよく歌いたい…
椅子に座って煙草を咥えオイルマッチで火をつけて月に、ふぅ〜っと紫煙を掛けるも届く訳もなく、秋の夜風に消えていく
『ホントに…つきが、きれい…』
「月はずっと前から綺麗だよ」
聞こえた声に振り向くと窓のとこに立った翔君が見た事ないくらい優しい表情でこちらを見ていて
「だからこれからも、ずっと一緒に月を見ようね…」
と続けて…思わず煙草が手から滑り落ちた
『…え』
慌ててしゃがんで煙草を広い灰皿に押し付ける。待って待って…え…だって昨日のは不発で、でも十六夜は知ってて…待って、翔君はそれの意味を知ってるの!?
「…昨日は気が付かなくて、スルーしちゃってゴメン。今日8Pの現場で専務がAちゃんの昨日のツイート見せてくれて…梅さんとのリプ見て…榎木君から、夏目漱石の「I Love You」の話聞いて思い出した。「死んでもいいわ」なら、知ってたから」
申し訳なさそうにする彼に頭がついて行かない。つまり昨日までは知らなかったって事?じゃぁ…さっきのは?
『ど、いう…いみ、か…ちゃん、と…わか、ってる?』
「うん、昨日のもさっきのも…ちゃんと分かった上で、言ってる。今、マイク前に立てない不安とか…色々あると思う。でも…これから先何があっても、俺はAちゃんから離れないから。だからこれからも、ずっと一緒に月を見ようね…」
滲んだ視界の中、月明かりで照らされた翔君は夜空に輝く月や星々よりも綺麗だった
19人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:福招猫 | 作成日時:2021年9月20日 23時