野上さんは天使ですか？13 (ページ8)

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アフレコ中ページ8

涼と鈴太の大事なシーンでマイク前に立つ千葉さんとAちゃんを後ろから見つめる
千葉「〔なぁ…リン。もし困ってる事があるなら、兄ちゃんに言ってみなよ。絶対助けてくれるから〕」
『〔…だから言わねぇんだよ〕』
千葉「〔リン？〕」
小学校5年生の男の子を演じる彼女。目を閉じて聞けば30代の女性とは思えない。いや演技力は舞台も生で見たし知ってたけど
『〔だって…兄ちゃん、俺の為に涼兄ちゃんのバッテリーやめて、バイトして…大変なのに…〕』
彼女の声が震えてラフ画状態の鈴太が本当に泣いてるように見えた。やっぱりAちゃんの演技の引き出しすげぇな…
『〔俺のせいで兄ちゃんが大変なのに…これ以上迷惑掛けたくねぇもんっ…〕』
千葉「っ…〔そっか…リンは兄ちゃん大好きだもんな〕」
ほんの一瞬。千葉さんが動揺したように見えた。でもそれが声に乗ることはない
『〔っうわぁぁぁん〕』
千葉「〔やっぱり、リンは何も変わってない。何年経っても変わらない風太大好きっ子で、大好きだからこそ言えなくてずっと我慢してたんだ……ねぇリン〕」
『〔ん"…〕』
千葉「〔リンが風太を心配するように、風太もリンを心配してる。弟大好きなアイツがリンに頼られて迷惑だって思うわけないだろ〕」
『〔だって兄ちゃん、学校と家の事とバイトで大変なのに…〕』
千葉「〔安心しろ、リン。風太には俺が居る〕」
『〔涼兄ちゃんが？〕』
千葉「〔おう！いいか、バッテリーってのは夫婦だ〕」
『〔夫婦？〕』
千葉「〔投手が崩れそうな時は捕手が支えて、捕手が崩れそうな時は投手が支える。そうやってマウンドの上でチームを引き上げるんだ…俺がマウンドで崩れそうな時、いつも風太が支えてくれた。だから風太が崩れそうになったら、俺が支える。そうやって2人でお前を引き上げてやる！〕」
そのまま2人の芝居が続いて、俺も含め他の演者もただ2人の芝居に聞き入った

OKの声が掛って彼女から大きなため息が聞こえた後、千葉さん困ったように彼女と俺を交互に見た
「千葉さん？」
千葉「野上さん…」
2人に近づくとAちゃんがボロボロと泣いてる事に気が付いた。アフレコ中役に入りすぎて泣いちゃう役者さんはたまにいらっしゃるけど、彼女が今までキャラに引っ張られてアフレコ中に泣くとこなんてなかったのに…初めて見たかも。さっきスタッフさんと来る時ハンカチを風で飛ばされたって言ってたのを思い出し、台本で顔を隠すAちゃんの背中を撫でながらハンカチを手渡した