アフレコ ページ7
「〔待て、リン!!〕」
彼の隣のマイクに立つのは、いつぶりだろうか…
『〔なんだよ、うるせぇな。俺は犬じゃねぇぞ、クソ兄貴〕』
「〔兄ちゃんの話まだ終わってないだろ。その怪我どうしたんだよ〕」
今日は久しぶりに翔君と同じ現場でちー君が主役の涼を演じる「マウンドに涼風が吹く」の収録。翔君の演じる風太は涼の幼馴染でバッテリーだった。あたしは弟 鈴太役。妹とか姉役はあったけど、翔君の弟役は初めてだ
『〔コケたって言ったろ…しつけぇな〕』
「〔どう見たって転んだ怪我じゃねぇだろ!?〕」
『〔うるせぇ、ほっとけよ!!〕』
スっとマイクから離れてふぅっと息を吐き役を抜く。少しの間リンは出てこない
「〔待て、リン!!鈴太!!〕」
千葉「〔風太…〕」
「〔…なぁ、涼。あの怪我…本当に転んだ怪我だと思う？〕」
千葉「〔…人間、転ぶと普通は咄嗟に手が出るから掌に多少傷ができる。でもリンは…掌に傷1つない。それにあの手首の痣…あれは掴まれた跡だ。指の形だった〕」
「〔…だよな〕」
翔君の悲しそうな声にキュッと心臓が鷲掴みされたみたいに痛く感じる。この声聞くと切なくなる。ストーカーに襲われそうになって翔君手を引いて逃げてくれた後、警察と一緒に家に戻って酷い有様の家を見て…拓と隼君に謝っていた彼と重なる
千葉「〔風太、リンに何があったんだよ…〕」
「〔ウチの親の事は知ってるよな〕」
千葉「〔…去年離婚した事が原因で、酒とパチンコ浸りになってる親父さんだろ。…風太が大人に相談しないのは多分リンと離されたくないからだ〕」
「〔あぁ。それが原因でイジメにあってるらしい。リンは何も言わねぇし、リンの学校行って聞いても担任はイジメはねぇって言うけど…〕」
千葉「〔誰かに聞いたのか？〕」
「〔リンのクラスメイトの女の子がその場面を目撃したって教えてくれたんだ。リンには「誰にも言うなよ」って口止めされたらしいけど…見て見ぬふりはできないって。だから問い詰めようと思ったんだけど…逃げられちゃったな…〕」
千葉「〔そうだったのか…〕」
風太は優しい弟思いのお兄ちゃん。弟の為に部活を辞めてバイトと家事をしている
「〔なぁ、涼…〕」
千葉「〔…ん？〕」
「〔やっぱ俺じゃ頼りねぇのかな…〕」
千葉「〔…この時の風太の顔は、小学生の頃からずっとバッテリーを組んで来て…初めて見る泣きそうな笑顔だった〕」
2人の切ないお芝居に視界が滲んで慌ててギュッと目を閉じる。危ない危ない。泣いてノイズ出す訳にいかない
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 14人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：福招猫 | 作成日時：2022年4月29日 8時
