26 ページ26
ちょっとのお説教をくらって、改めて保健室に行けば当然ふっかはいなかった。
置いてってしまったネクタイを受け取って、そのまま帰ろうと昇降口に行くと、壁にもたれ掛かるふっかがいた。
さっきの光景を思い出して少し緊張しそうだったけど、顔を合わせるなり「血色の良いマリモじゃん。」なんて言ってきたので緊張なんてあるわけなかった。
こいつはそういう男だ。
そんなふっかを当然無視して帰ろうとしたらすかさず隣を歩く。
結局一緒に帰るんだから、そんな憎まれ口叩かなきゃいいのに。…と、飽きもせず毎回思う私も居たり。
今日は一日中雨の予定なのか、それでも昼間よりはだいぶ弱くなった雨のおかげで足が濡れる心配はなかった。
傘をさしている分、私とふっかの距離が遠い。
……別に遠いからと言って特に問題は無いんだけど。
「埋め合わせの事なんだけどさ。」
朝と同様、ふっかから声をかけられる。
「…お金と命は無理だよ。」
「だからお前は俺をなんだと思ってんだよ。」
「冷たっ！？」
「いやふっかなら冗談抜きで言いそうなんだもん…」と言えば顔に雨水をかけられた。私さっきまで寝込んでたんですけど…？
「おばさんが作ったブラウニー食いたい。」
「…え"ッ」
「何。無理そうなら変えるけど…」
「いや無理じゃないって言うか、出来るけど…できないって言うか…」
おばさんが作ったブラウニー、というのは勿論、ママの作ったブラウニーなのだけれど。
なぜこいつがそんなこと覚えてるんだと抗議したい。
ちなみに私のママはお菓子作りが壊滅的に下手くそで。ブラウニーなんて、1度も作ったことがない。
そう、1度も。
あれは、中学一年の時、家庭科実習でケーキを作る課題があり、その練習過程で出来たのが、私の作ったチョコブラウニー。
練習なので大量生産して、パパもママも皆おなかいっぱいになってしまい、どうしようかと迷った時だった。
「なにそれ。ケーキ？」
たまたま遊びに来ていたふっかが、私の机の上に置かれているブラウニーを見つけた。
それに答える間もなく、ふっかの口に放り込まれる。
「うま。…誰が作ったの？」
「え……｡」
この時の私とふっかは、今よりもっと気まずくて。まだ私がふっかの暴言とかに慣れてない頃だった。
自分がつくりました！なんて言ったら目の前で吐くかもしれない。騙された！とか怒るかもしれない。
そんな弱虫な理由から咄嗟に出たのが、「ママ。」だった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 188人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：函娘 | 作成日時：2023年9月26日 20時
