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「私、職員室寄ってから行くね。ほんと、ありがとう。」
「ん。」
何とか愛想笑いを浮かべて保健室を出る。
あ、しまった、ネクタイがない。あれがないと職員室に入る前に注意されてしまう。
そう思って慌てて保健室に戻ろうとすると、中で派手に転ぶ音が聞こえた。
「え、何どしたの！？」
思わずガラリと開けて目に入ったのは、真ん中で派手に転けてるふっかと、散らばった薬品と機材たち。
「………問題ない。」
「でもなんか、怪我して…指切ってる…」
「なんでもねえ！！」
急な大声にビクリと肩を揺らすと、ふっかが顔を上げる。
「ごめ、…怒鳴るつもりじゃ…。」
「う、ううん。私もごめん、余計なお世話だったね。」
さっきの妙な空気と違って重たくなる空気。
…ここは1人にした方が良さそうだと思って立ち上がろうとした時だった。
「ふっか、耳怪我してる？」
「…あ？」
「赤……い…」
「〜〜っ！！み、見んな！！」
あんまりにも真っ赤だったから驚いてその耳に触れると、それは、出血に見えるほど、真っ赤に染まったように見えた、耳。
触れた瞬間、ふっかが腕を掴む。
つまり、ふっかの顔を覆うものはないわけで。
耳と同じく、目元の頬まで赤いふっかを見て、私までまた釣られる。
顔が熱いから、きっと今ふっかと同じ顔をしてる。
「〜〜〜っ！お前も釣られるなよ！」
「ご、ごめん？！」
反射的に謝ってしまったけど、別に私悪いことしてないな…？と急に冷静な私が出てくる。
「と、兎に角、怪我がなくてよかったけど…気をつけてね…指切れてるから、あの、これ……。」
と言ってポケットから1枚だけ余ってた絆創膏を、ふっかの切れた指に巻く。
触っても何も言わないふっかが変で、なんだかいたたまれなくて、短い言葉を残して保健室を出た。
途中、誰もいない教室に入って、そのまま崩れるように座り込む。
逸る心臓と、引かない顔の熱。
さっきまで苦しかったのに、どくどくと脈を打って、今も苦しいはずなのに。
苦しいのに苦しくないそれの名前を、私はまだよく理解できない。
まだ降り続ける雨音に耳を傾け、落ち着かせる。
…今あの雨に打たれたら少しはこの熱も冷めてくれるだろうか。なんてアホなことを考えられるだけ落ち着いた私は、職員室に向かった。
結局、ネクタイを忘れてしまい、ちょっとお説教を食らってしまったけど。
生徒指導の先生、ホント苦手。
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作者名：函娘 | 作成日時：2023年9月26日 20時
