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. 深澤side
俺にはなんの助言もできないくらい
そして聞けば聞くほど苦しい話だった。
かける言葉がなかなか見つからなかった俺は
飲もう、と3人でビールを乾杯した後、
彼女の目から涙が流れていくのを、
一瞬、顔を背けることで自然に誤魔化したのを、
見逃さなかった。
でもここで心配の言葉を掛けるのは、
違うな、と出しかけていた言葉を飲み込む。
すると、オーダーのタブレットが
ラストオーダーの時間を知らせる。
「え、待って今何時?」
その表示を見て言い出した照の言葉に
俺もハッとして時計を見れば
時計の針が指している時刻は
23時の半分を過ぎたところ。
『照、終電やばいじゃん、!』
「今出れば、間に合うなぁ 」
言葉と共にこちらをチラッと見てきた。
え、何?俺?
『じゃあ今出よう!とりあえず、』
言葉の直後、
手際よく3人のお金を纏め、
お会計に向かったAさん。
「A、ここから家近いから。」
「うん。 ...ん?」
その隙に小声で声を掛けてくる照。
なるほど、つまりは帰りは俺と同じだってことか?
「いきなり2人にして悪いけど、危なくないようにだけ頼むわ。」
「おー、ちゃんと安全に送り届けるよ」
「ありがと、任せた。」
正直な今の俺はアルコールのせいもあり
情けなくも1人になるのは少し、心細かった。
そしてそれと同じくらいAさんのことを、
もう少し知りたいと思う気持ちも。
少しこの状況を嬉しく思っている自分がいた。
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作者名:紫苑 | 作成日時:2023年10月14日 13時