Osmanthus of smell【JN】 (ページ13)

今日:4 hit、昨日:0 hit、合計:97,652 hit

13 ページ13

友人が放った一言が忘れられなくて、その日はずっと上の空だった。

世間一般的に見れば、やり捨てと呼ばれることだけど、

そんなに彼が酷い人間だと思わないのは私が馬鹿なのか、彼がそういう人間じゃないからなのか。

その答えすら見つけられない私が恐らく馬鹿なんだろう。

でも彼の笑う顔や、撫でてくれた手の暖かさは今まで感じたことの無いくらい優しい。

私たちはお互いを知らない。

名前を知っているだけで、普段何をしているのかとかどういうものが好きなのかとか。

名前以外のことは何も分からない。

連絡先を知っているわけじゃないし、予め計画していくデートなんて存在しなかった。

これ、ってもしかして…

「私…都合のいい女？」

ポツリ、と呟いた独り言は私の血の気をサーっと引かせた。

確かに私のことを何故知ってたのか聞いた時も、嘘だったと言われたし、

彼にとって、私ってどういう存在？

私には何も分からない。

考えれば考えるほど、難解で答えが見つかりそうもない。

それだけ私はソジンさんのことを分かっていないということの裏返しだ。

1人で帰り道を歩いていると後ろからトントン、と肩を叩かれた。

振り返ると

「…ソジンさん、」

「こんばんは」

そこにはソジンさんが立っていた。

ソジンさんは両手に袋を抱えてて、嬉しそうに見せびらかした。

「トッポギ。あそこの屋台で売ってたんだ～」

「そうなんですね、」

嬉しそうに笑うソジンさんを見ると口元が緩んでいくのが分かる。

「一緒に食べる？まだあったかいよ」

ほら、と私の手を取りに袋の底に当てる。

冷えた手にはじんわりと温かさが広がった。

「…食べます」

彼はニコッと笑っていいよ、と呟いた。