飛花落葉のように。【原神】 (ページ10)

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「タチの悪い冗談はやめてくれないか」

「本心だよ！君の酒は本当に＿」

「酒が美味いのはもう分かったよ。……褒め言葉として受け取っておこう」

少し困ったように微笑んでみせたディルックに、少女は「うん。それでいい」と満足そうにしていた。思えば、あの日の彼女は珍しく午後の死を飲んでいた気がする。そして、初めて名で呼ばれた時でもあった

少女が人を名前で呼ぶことは少ない。それどころか、名前を思い出す素振りすらしていたような。彼自身も、あの時以降、名前で呼ばれた記憶は無かった

＿注文にあった酒を運び終えたディルックは、カウンターに戻り少女を見る。入店したばかりの彼女は先程、タイミングが合って良かったと言っていた。いつもの事だろうと流したが、彼女はいつもと同じではないようだった

「その服は？」

「璃月装束だ」

「それは見て分かっているが」

いつものモンド装束ではなく璃月のもの着た少女は、それ以上話すことは無いようだ。見たままが全てと言うように目を伏せる。ずっと欠かさず付けている耳飾りがしゃらりと音を立てた。そこで初めてディルックは、その耳飾りが璃月装束と合わせたような見目であると気付いた

「君、璃月人だったのか」

「……そんなところ。ところで、今日は君に預け物があってね」

「預け物？」

「うん、これ」

カウンターの上に木箱を置いて、そのまま蓋を開ける。中に入っているのは上質な絹布に埋もれたひと瓶の酒で、ひやりとした空気が漏れ出る程に凍っていた。これは…という呟きに、少女が「ドラゴンスパインで冷やしていたから」と返す。あまりにも平坦な声色で当たり前に返すので、ディルックもそうかと頷きかけて、慌てて彼女の手を取った

「おや、…」

「ドラゴンスパインって君、危険だろう！」

そのまま怪我は、寒さは、と聞かれ、少女は大事無いとおざなりに返しつつ、何となくガイアを思い出す。手を取る所作も触れ方も、危険なことを…といつもの仮面も崩れ少し不機嫌そうに眉を顰める様子も似ていた。そういえば、たしか義兄弟といったか

「永久凍土を利用したのか……今後はしないでくれ。するとしても、僕かガイアを連れて行くことだ」

「いや君、私も武人なのだけど」

世話を焼くのは義弟にしてくれと、いや、そうではなくてと少女は首を振った