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「……また巨龍か?」
「…そのようだ。私達は仕事に戻るとしよう」
頭上から聞こえた騎士ふたりの厳しさを含んだやり取りに、少女はゆっくりと瞼を上げる。ごうごうと耳元で吹き付ける風がいつもより強い気がして、無意識に右耳に手をやった。そちらにだけ付けてある耳飾りの、白糸の房飾りに指先が触れて、しゃらりと揺れる
また彼が。この耳飾りを与えてくれた私の友人が、名前を呼んでくれたら__
「そんな顔をしないでくれ」
懇願に、はたと顔をあげた。ジンもガイアも、ふたりして此方を見ている。少女の頬にはジンの手が添えられていた
風に吹かれて冷えた肌にじんわりと熱が広がる。その感覚が、まるで自分が彼女の熱を奪っているようで、少女は好きではなかった。だって、熱を奪われて冷めていくさまは、死体のようではないか。それを連想させてしまうのは、まったく良くない
「…どんな顔を?」
少女は首を傾げた。問いかけられたジンは指先だけでさらりと頬を撫でて離す。好きではないと宣うくせに、離れていく熱を恋しいと思った。晒された頬を冷たい風が撫でて、また熱を奪っていく
その間、少女は応えを待ってジンを見上げていたというのに。ジンはやさしく微笑むだけで問いの答えはくれなかった。けれど、その緩められた瞳に映る己を見て、ああなるほどと悟る。随分と情けない顔を晒したものだ、と
「このモンドは私達騎士団が必ず守ると、誓おう」
心配するなと言われている
少女はもとより、モンドの安否など大して心配していない。彼女が案じているのは民ではなく、今まさに自由の都に厄災として降りかかろうとしている巨龍、そのものなのだ
「…ありがとう」
けれども代理団長の清廉な誓いに、真摯な言葉に、己を安心させようとしてくれている心に報いたいと、そう応えた。そして、ではこれでと少女が言えば、芝居がかった所作でガイアが手を差し出す
「帰り道のエスコートは必要か、レディ?」
「…遠慮しようかな。騎兵隊長殿は忙しいだろうから」
「そりゃ残念だ」
差し出すも取られなかった手を軽く上げて肩を竦めるのに、笑っている様子を見ると、彼も彼なりに安心させようとしているのだろうなと、少女は息を零すように微笑した
__耳飾りをくれた彼が名前を呼んでくれたら、こんなに寂しいと思うこともなかったのに
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藤宮(プロフ) - ルアンさん» コメントありがとうございます。この小説をとうぞよろしくお願いします (1月17日 0時) (レス) @page48 id: 75e16aadd4 (このIDを非表示/違反報告)
ルアン(プロフ) - めちゃくちゃ面白いです😭💘 (1月14日 14時) (レス) id: 964364b64c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:藤宮 | 作成日時:2022年12月29日 5時