飛花落葉のように。【原神】 (ページ46)

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さっと立ち上がったAは、ぐっと耐えるような顔をした鍾離を見て首を傾げた
俺は、と絞るような声が聞こえる

「……俺は、俺の責務を果たせただろうか」

ぱちりと瞬いた彼女はやがて破顔し、いつものように笑うのだ

「果たせたさ。果たせたにきまってる」

そうかと返した声はあまりに情けないほど安堵に塗れたものだった。今までの行いを肯定し、労わってくれる彼女の笑みが、言葉が、鍾離にとっては救いのようで

そうやって彼女また、彼の胸の内に花を咲かせるのだ
清廉で潔白な、あまい蓮華を

「では、鍾離(・・)」

「！──いま、名を…！」

言葉の余韻に浸っていた鍾離がハッと顔を上げる

呼んでくれと乞うても彼女はその名を頑なに口にしなかった。まだ死んでいないのだから君はモラクスだと言って

「なんだ。君の名は、今は鍾離なんだろう？」

呼んだのは、モラクスとしての彼が今日死んだからだろう。
それにしたってこのタイミングとは──

「私の身は魔神のままだけど、今は私もひとの営みに混じってるんだ。だから鍾離」

彼女は微笑む

「これからは、鍾離の友として、よろしく頼むよ」

いつも、モラクスに対しては他より少し冷たい彼女だった
それでいて、彼に対してはずっとずっとあまい彼女だった

最後まで璃月を見届けてくれと我儘を言った。それを承諾してくれたことですら意外だったのに
最上の敬意と労りの言葉、限りない肯定と、そして昔と変わらぬ微笑み

──あぁどうやって、

例えるのなら、飴と鞭がうますぎるのだ

鍾離はAの手を取った。ぐっと引っ張って己の中に抱き留める。彼には珍しく、甘えるようにぎゅうと力を込めた

──どうやって、この想いを返せばいい

「A」

「なんだ、鍾離」

「ああそうだ。俺の名は鍾離だ」

「……しってるよ」

仕方ないと言いたげに彼女の手が広い背を撫でる

うれしかった。鍾離はどうしようもなく嬉しかったのだ

懐紙を受け取ってくれたこと。それを頼りに会いに来てくれたこと。また言葉を交わしてくれたこと。己の目を見て微笑んでくれたこと。今日璃月を見届けてくれたこと
そして。そして、また友としてくれること

往生堂で会ってから今日まで、どれもずっと、うれしかったのだ

はは、と零れた笑い声は、今度は幸せなほど歓喜に満ちたものだった