飛花落葉のように。【原神】 (ページ42)

今日:48 hit、昨日:74 hit、合計:39,505 hit

＿2 ページ42

.

常の静穏さを忘れ激しく渦を巻く大海を見下ろして、Aは上空に立っていた
そこに足場は無いはずなのに、確かにあるのだと錯覚させてしまうほど、しっかりと両の足を何も無い空間に着いている

晴天はなりを潜め、黒の混じった雲に覆い隠された
今にも雷雨が来そうな空の下、世の法則を無視したように超常的にざわめく波の上。ごうごうと吹き付ける風に髪を遊ばせてただただ見下ろす様のなんと浮世離れしたことか。七星の指示のもと動いた千岩軍によって民はすでに港から避難しており、彼女の姿を見る者がいないとは忍びない

「──上古魔神を呼びを起こすなんて、随分とやんちゃな子がいるようだね」

誰に聞かせるでもない言葉が空気に溶けた
ぐるぐる、ぐるぐる。渦を巻き続ける波の中心から、それは顔を出す

「あぁ、オセル」

友の名を呼ぶように軽やかな声。新兵は立つことすら儘ならぬかの魔神を前にして、彼女は眉をひとつも動かなかった

けれども、あぁ、心が高揚している！だって璃月が、璃月の海が、あの頃とまるで同じではないか！

魔神戦争は終わったのに。とっくに昔の話なのに。あの血塗れの厭うべき日々がまた始まろうとしている

「まったく、いやになる」

Aは緩くかぶりを振った。あの頃の楽しい記憶と厭な記憶が混ざり合って、思い出すだけで胸が締め付けられる想いをする
ちがう。今は違う。あの時代はもう終わったのだ。だってほら、璃月の地に足を着けたって、己を見て神だと思う者は誰もいない。居なくなったのだ。やっと

やっと平和になったのだ。だから

───だから、オセルには眠ってもらわなくては

時代は変わった。渦の魔神と敵対していた時代は終わった。けれど彼が戦うと言うのなら、眠ってもらわなくては。邪魔でしかないのだから

「さて、殺せるかな」

弧雲閣には動ける千岩軍の兵士。その上空に浮遊する郡玉閣には七星と……仙人達もいるのか

彼等だけで殺せるか？いいや、殺せないだろう
岩王がいて、今より数多の仙人が存命していたあの頃でさえオセルは殺せなかった。だから後世に彼を残す危険を承知で封印という手を取ったのだ。彼等だけでは殺せない……が、

きらりと輝く金を見た

Aは、その姿を知っていた

水面を揺らすように波紋を描く空中で胡座をかいて、お手並み拝見といこうかと、彼女は笑った