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しかし、とジンは自身の剣を見た。どれだけ激しい攻防を繰り広げようと、少女の刃が己を傷付けることはなかったな、と。今日のように得物が手元を離れていくことも、彼女に組み敷かれることも、その刀の切っ先がジンの喉元の、寸のところで止められても。足を縺れさせて転けでもしない限りは、少女によって傷が付くことはない
そこまで彼女が気を遣っているのか、その気遣いを崩すことすら出来ない程に実力差があるのか、ジンにはわからない
ただ断言できるのは、己にはまだ精進あるのみということ
_と、そこまで思考して、ふとガイアを目にした。いつも真意の分からぬ笑みを浮かべて、のらりくらりとしているその男は、今ばかりは仮面が剥がれてしまっている
剣を握るかペンを握るか、はたまた酒の入ったグラスを傾けているかが常の褐色肌の手は、腫れ物に触るように、やけに慎重に少女の手を取っていた。どうやら真剣を使っていることが不満らしいと、多少不機嫌そうな目の色を見てジンは察する。少女はそれを分かっているのかいないのか、まるい瞳で重なった手を眺めていた
「怪我はしてないか?」
「していると思う?」
「思わないな」
「でしょう」
ぷつりと応酬が途切れる。話は終わりだと言わんばかりに見上げてくる目を受けて、ガイアは指の腹でいたずらに少女の手を撫でた。いざ触れてみて、己が思っていたよりも彼女のしろい手はやわくなめらかなのだと知って、不覚にも動揺する。いやてっきり、あんな動きをするものだから、武人の手なのかと…この手のどこに剣を振りまわす力が?
と、その一瞬で少女はさっと手を引き抜いた
「…ったく、俺は心配してるんだぜ?」
「わかっているとも。けど、無用なものだよ」
借りてきた猫の方がまだマシだろうと言いたくなる無愛想さに、「長い付き合いだってのに酷いもんだぜ」と彼は少女を小突く。ジンはそれが騎士仲間にやるものとは違う、小突くというのはあまりにも優しいものだと気付いて、微笑ましいものを見てしまったなと微笑した
_その気安い雰囲気を壊すように強風が吹き始める
モンドの空模様は、近頃変わりが激しい。空を見上げた少女は、遠くで聞こえた羽撃く音に少し寂しそうに瞳を細め、瞼を閉じた。懐かしいライアーの響き、風にのった詩声、空を切り進む優しい翼は、いまはもう、なかった
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藤宮(プロフ) - ルアンさん» コメントありがとうございます。この小説をとうぞよろしくお願いします (1月17日 0時) (レス) @page48 id: 75e16aadd4 (このIDを非表示/違反報告)
ルアン(プロフ) - めちゃくちゃ面白いです😭💘 (1月14日 14時) (レス) id: 964364b64c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:藤宮 | 作成日時:2022年12月29日 5時