飛花落葉のように。【原神】 (ページ40)

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子供扱いをされていると知って、魈は少し不機嫌になる

「我はもう雛ではない」

「それはどうかなぁ」

余裕あり気にころころと笑う彼女をどうしたものかと思案して、しかしその楽しそうな様を見れば何をしようとも思えなかった。結局、許してしまうのだ。Aのこととなると己はあまりに甘くなる。夜叉たる者がそれで良いのかと自問したとて、その問いすら思考の外へ放り出して視線は彼女へ向いてしまう

それを何度か繰り返した頃には自戒すら諦めていた

ふとAが外を見、体を起こす
先には、日が沈み赤く染まった空が広がっていた

「──夜が来る。もう帰らないと」

先程までとは打って変わって落ち着きに満ちた声で呟いた
魈もまた、静かに頷く。これからは妖魔がより活発になる時間帯。彼の、責務を果たす時間だ

いそいそと寝台を降りて窓枠に足をかける彼女の背に魈の声がかかる

「これが、最後ではないのだな」

それは問いのようにも、確認か、はたまた懇願のようにも聞こえた。振り向いて見た彼は下を向いており、どんな顔をしているのかAにはよく分からない

魈は恐ろしかった。言ってしまえば、自信が無かった。契約のない彼女は、璃月に縛られることのなくなった彼女は、その自由な時間を割いてまで己の元へ足を運ぶのか？はたして己は選んでもらえるのか。生きていながらこの地に足をつけなかった今までように、この生存の報せという義理立てが終われば、もう──

金鵬、と名を呼ぶ声が聞こえた。はっと魈は顔を上げる。窓枠に腰掛け、夕陽を背負った彼女がこちらを見ていた

「会いたいならそう言って、名をお呼び。そうしたら、お前の元へ行ってやろう」

確かに優しさを含んだ声で、しかし飽く迄も尊大に彼女は宣う。会いたいというお強請りが魈に出来るのか品定めするように瞳を細めてにっこりと笑う様は、正しく神の姿に思えた

こくりと彼が頷けば、一層笑みを深めた彼女が手招く。一歩二歩と距離を縮めた彼の小さな顔をその手で掬いとり、そのなめらかな額の、菱形の印に口付けた。それはAが多少の加護を与えるときにする仕草だ

夜が明ければ迎仙儀式がやってくる。璃月がどう転ぶかは分からない。けれどどうか、すべて上手くいきますように

その口付けは、これからの魈と仙人達への鼓吹のようであり、彼女の願いであった