飛花落葉のように。【原神】 (ページ38)

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解放された手を閉じたり開いたりして感覚を確かめるが、赤く付いた傷も主張していた痛みも無い。まったく見事なものだと魈は心中で感嘆した

「感謝する」

「うん。どうも」

無理やり治療したようなものなのに律儀に謝辞を述べる様子が可愛らしくて、彼女はやわく微笑む。しかし煮えきらぬ顔で他に視線を移した。どうかしたのかと魈が問う

「……怒らないのかと思って」

何が、とは、聞くまでもなかった。だというのに、幼子が単純で純粋な疑問を親へ口にするような声色だったもので、これまでのことだと察するのに魈は数拍を要した
いくらか逡巡して口を開く

「契約を……帝君を、裏切ったのか」

問いを聞いて、目を伏せて、Aはゆるゆると首を振った

「一応、モラクスと話した上で…それで、契約を終わらせたよ」

「───そうか」

だからもう、民を守護する役目も、戦場で共に戦う理由も、璃月に手を差し伸べることも、もう無いのだ。そういったものは全て、とっくの昔に捨ててしまった。契約と共に手放してしまった

「──ならば」

淡々と紡がれる言葉を聞いて魈は目を伏せる
去る前にそれを言ってくれればとか、そもそもなぜ契約を終わらせたのかなど、言いたいことは他にもあった。けれど何となく理由に察しがついてしまう気がして、それを思い起こせば聞く気にもなれずに呑み込んだ

「帝君が、それを良しとしたのならば、我が言うこともないだろう」

それが全てであった

かの神の御心のままにと言うには、魈とAの間あるものは大きい。彼女のことになれば全て帝君の仰る通りにとは頷けないだろう。けれど此度の件ではそう言うしか、そう思うしかなかった。なにせ事は何百年も前に終わったことなのだから。…自分達の、知らぬ間に

知らぬ間にすべてが終わって、知らぬまま数百年を過ごした。あぁなんと──

いや、と彼は頭を振る。そんなことを今更考えたとて意味が無いのだ。──ただ
ただ、望むとすれば、生きていてほしいと思う。我より先に死んでくれるな、と

はっと、薄く自嘲した。なんと傲慢な望みだ。自ら死を望んだ者がかつての仲間にいただろうか。生きたいと願って、それが叶わなかった者達ばかりではないか。最期というのは必ずしも思い通りになるわけではないと言うに。それを彼女に望むとは

そんなこと、言えるはずもないのだ