検索窓
今日:26 hit、昨日:113 hit、合計:39,596 hit

_11 ページ37

.



繰り返す声が細く小さく震えていたものだから、思わず顔を覗き込む


「泣いているの?」

「泣いてなどいない」


間髪を容れず返ってきた声は不服そうであった。確かに瞳は濡れていないが、濡れていないからといって泣いていないことにはならぬとAは知っている。これはモラクスの元を離れてから知ったことだ

本当か? と目前の金色を眺めていれば、ふと視界が影に覆われた。それは魈の手であった。隙間から見える顔は斜めを向いている


「……些か、ちかい」

「お。照れたのか」

「照れておらぬ」

「ふうん?」


互いの息がかかる程の距離であったが、初めてでもないのだからそう言わずともいいのに
今度はAが不服そうにして、しかし離れていく彼の掌が視界に入れば、その表情もすぐに消えた。ぱしりとその手を取る

少年らしく細く、武人らしく硬い手を覆う手甲には疎らに血が滲んでいた
思い返せば先程、手を握りしめていたが──


「お前は加減を知らないの?」


何事にも程というものがある。血が出るまで握り締めるものではないだろう

叱る口調でものを言われて、またしても魈は目を逸らした。同時に彼の手もAの元から逃げていく


「この程度の傷、我の気に止めるほどではない」

「ほう。口答えか」


魈は僅かに肩を揺らした。ちらりと彼女の表情を窺えば、怒っているのかも分からぬ静かな目をした、可愛らしい顔がそこにあるだけであった

ふと、口答えするなと言って己を泉に突き落とした昔の彼女を思い出す。あの時と同じであれば、怒ってはいない。怒っていないのにひとを泉に突き落とす奴なのだ。面白がってやっているわけでもないから尚タチが悪い


「しょう」

「…なんだ」

「お座りよ」

さっさと寝台に腰掛けたAが手招く。眉を顰めた彼は腕を組み拒否を示した


「治癒は必要ない」

「…金鵬」

「……わ、わかった」


従う必要はないと分かっているのに、金鵬とそちらで呼ばれてしまっては、魈は断り文句を考える間もなく頷いてしまった
そっと隣に腰かけて、手甲を外した掌を差し出す。よろしいと深く頷いた彼女が掬い取るようにそれを取り、もう片手が翳すようにして魈の平を覆った

そうして、触れるか触れぬかの距離にあった彼女の手が離れていけば、もうそこに傷は無い。魈の掌は綺麗さっぱり元通りとなっていた

_12→←_10



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 10.0/10 (105 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
251人がお気に入り
設定タグ:原神 , gnsn
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

藤宮(プロフ) - ルアンさん» コメントありがとうございます。この小説をとうぞよろしくお願いします (1月17日 0時) (レス) @page48 id: 75e16aadd4 (このIDを非表示/違反報告)
ルアン(プロフ) - めちゃくちゃ面白いです😭💘 (1月14日 14時) (レス) id: 964364b64c (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:藤宮 | 作成日時:2022年12月29日 5時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。