飛花落葉のように。【原神】 (ページ34)

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──魈がその異変を感じたのは、少女の姿を見かけなくなって幾程たったかという頃だ

璃月から彼女の気配が完全に消えてしまった。これはおかしいと嫌な予感を覚え、何か知っているだろう主君へ問いを投げかける

「帝君、Aはいま…」

どこにと続く筈だった言葉は、かの人の横顔を見て呑み込む他なかった
なんて表情をされているのか。石珀の瞳が、あれほど悲痛な哀愁の色を孕むさまを魈は見たことがない。ああそうか。あの方は、Aはもう──

民衆や他の仙人の間でも囁かれていた噂。信じられるものかと頑なに認めなかったあの話を、そのとき初めて認めた。認めてしまったのだ

──だから、今目の前に立つ彼女の存在が信じられなかった

「なぜ……」

なぜ生きているのか

何百何千の時をかけて、やっとAの居ない事実を消化できたというのに。なぜ今になって現れる。なぜあのとき何も言わずに消えた。先日感じた彼女の気は、気の所為などではなかったのか

言いたいことが山ほど溢れて、魈は己の指先が平に食い込むほど拳に力を込めた。そうでもしなければ、いますぐ彼女に手を伸ばしてしまうと思った

望舒旅館に気を感じて戻って来れば、夢にまで見たAが居るなど何の冗談か。己はもう既に、業障で気をやってしまったのか？
それともこれは──

黙っていた彼女が、申し訳なさそうに眉を下げる

「ひさしいね、魈」

──夢では、ないのか

それを理解した瞬間、魈は彼女の手を掴み旅館の階段を駆け上がっていた。最上階に準備された己の部屋へ迷いなく足を向ける
傍観に徹していたオーナーのゴレットは魈の徒ならぬ様子に「あら…」と戸惑いの声を上げ、これは上へ報告するべき件かと思案していた

「しょう」

ぐいぐいと引っ張るものだからAは彼に声をかけたが、聞こえているのかいないのか。返事がないのだから仕方ないとその背を眺めてみる

岩王や、同じ夜叉の騰蛇大元帥と比べればあまりにも小さい背中の、己とそう変わらぬ背丈。それでも彼は大将の名を背負い、今でも妖魔を屠っている
その背が、戦場で幾度と見た背が、どれほど頼もしいことか。昔と変わらぬ後ろ姿がどれほどの安堵を齎すか。魈は知っているだろうか

繋がれた手に目を向けて、知らないだろうなと静かに伏せた