飛花落葉のように。【原神】 (ページ32)

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「恋人じゃないって分かったところで、お嬢ちゃんの名前を聞いていいかな」

興味の矛先が噂から己になったと気付いて、少女はタルタリヤを見る。顔と肩と腰周辺に視線を移して僅かに瞳を歪め、お嬢ちゃん？と再度問いかける彼からふいと顔を逸らした

えっ…と彼は零す
女性にそういう態度を取られる経験があまりなかった彼は少し困惑した。噂の元である彼女に興味があったし、何より鍾離が今までにないほど気にかけているようだったので、努めて優しい声と表情で対応した筈だ。それはもう、妹の友達に接するみたいな

「………睡蓮」

暫しして放つように素っ気ない呟きが聞こえた。しかと声を拾ったタルタリヤが、睡蓮ちゃん？と復唱すると、少女はそれに構わず、離した筈の手を鍾離へ伸ばし袖口をくいと引っ張った

「ん？…あぁ」

それだけで何かを理解したらしい彼は、タルタリヤから彼女を隠すように半歩前に出て眉を下げる

「すまない公子殿。俺達はもう帰るところだったんだ」

「えぇ…」

まるで形だけの謝罪と申し訳なさそうな態度で、しかしはっきりと言外に帰れと言われて、またしてもタルタリヤは困惑し、今度はそれが音となって出た
彼女に己がファデュイであることは話していないし、例えそれを鍾離から先に聞いていたとて、これほど邪険な態度を示される謂れはないと思うのだが

「はいはい、過保護だなぁ。俺は退散するとしよう」

降参だと肩を竦めて、別れの挨拶と共にその場を去る。随分と警戒心の強い子だと最後に少女を見遣ったが、ついぞ声を聞くことも視線が絡むこともなかった

タルタリヤを見送った鍾離は己の背にある温もりへ、帰ろうかと声をかける。それを合図に離れた彼女は何とも言えぬ顔をしていた

「睡蓮とは、随分懐かしい名を持ち出したな。A」

「うん」

返事もおざなりに未だタルタリヤの去った方向をじとりと見つめる様子から小動物を連想してしまって、彼はくすりと笑みを零した。ぱっと彼女が顔を上げる

「それで、どうしたんだ。公子殿と何かあったのか？」

「いやあ、だってあの子…」

今度は嫌悪の滲む表情ではなく、手のかかる子供を見るような困った顔をした

「─いやいい。気にすることでもないかな。帰ろう」

うーんと唸ってから首を振って切り替えたらしい彼女は、また鍾離の手を取り埠頭へと歩き出した