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──その日、タルタリヤは面白い話を聞いた
己が璃月担当になり幾許か。女皇陛下の為にも岩神の神の心を捧げて差し上げたいが、心どころか肝心の岩神は姿すら見えぬ。あと少しと差し迫る迎仙儀式が年に一度の神と相見える機会らしいので、それを利用するかと算段をつけた所であった
遊ばせていた筆先を下ろして外を見る。北国銀行の奥の間で、今日も今日とてタルタリヤは書類と闘っている
しかし彼は身体を動かすこと─言ってしまえば戦いが好きなのである。どうしたって、机を睨み続ける時間は好きになれない。もう何分と対峙している書類は未だ真っ白だ
窓の外では璃月人のおば様方が井戸端会議に花を咲かせていた。タルタリヤが聞いたその面白い話は、そういった噂話だ
いま璃月にある噂といえば専ら迎仙儀式についてか、その面白い話のふたつだろう。思い出す度に笑いが込み上げてくる。だって本当に面白くてたまらないのだ。普段は鳥の散歩や骨董鑑賞をしている、あの老人のような趣味の男に春が来たというのだから。彼に懸想していた乙女達の反応も知れるというもの
「ははっ」
またひとつ笑いを零して彼は席を立つ
思い出したらもう、じっと座ってなどいられなかった。どうせ書類仕事は進まないのだ。少し外に出たっていいだろう
あっ! と眉を釣り上げる真面目な部下の小言を躱して、ただ黙って道を開ける、融通のきく部下には軽く挨拶をしてやる
銀行を出て、最早見慣れてしまった、しかし見事な朱色の階段を降り地面へ足をつけた。運が良ければ会えるはずと、周囲を見渡しながら緋雲の丘から南埠頭への橋を抜ける
「あっ」
そこでタルタリヤは見つけたのだ。毛先だけ石珀色の黒い長髪を後ろでひとつに纏めた、見覚えのある男の後ろ姿と、艶髪を揺らして隣に立つ少女の姿を。並んで歩くふたりの指先はいわゆる恋人繋ぎという形でしかと繋がっている
思わず足を止めた彼の目に男の横顔が映った。少女を見て笑っている。それは初めて見る類の笑顔であった。今まであの男が、そういう顔で笑った事があっただろうか。あるわけがない。きっと彼女にだけ見せる笑顔なのだろう
「──ふうん」
あの人間も恋なんてするのか
噂は本当だったのだと、タルタリヤは上機嫌に足を速めた
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藤宮(プロフ) - ルアンさん» コメントありがとうございます。この小説をとうぞよろしくお願いします (1月17日 0時) (レス) @page48 id: 75e16aadd4 (このIDを非表示/違反報告)
ルアン(プロフ) - めちゃくちゃ面白いです😭💘 (1月14日 14時) (レス) id: 964364b64c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:藤宮 | 作成日時:2022年12月29日 5時