飛花落葉のように。【原神】 (ページ29)

今日:27 hit、昨日:113 hit、合計:39,597 hit

＿3 ページ29

.

するりと彼女の手が間を抜けて離れていく。鍾離はあっと思って、しかし追いかけることはしなかった。彼女が優しく微笑んでいたから。ここにいると言うものだから

手を離したくないなど幼稚だったかとひとつ咳払いをして、その拍子に思い出す

「ところで、他の仙人には会ったのか」

「会ってないよ。気が重くて。…怒られると思う？」

不安気に揺れた瞳から目を逸らして彼は口篭った

「その、追い討ちをかけるようで悪いが…」

「え。なに。悪い話？」

「…俺は、お前との契約を終わらせたことを仙人に話した記憶が無い」

「はっ？」

Aが素っ頓狂な声を出して固まった。戯け！と言おうとするのに、動揺してしまってそれは音にならない。わなわなと震える唇を無理やり閉じて、さっと顔を青ざめさせる

契約が終わったとそのひと言すらも知らぬなら、仙人たちにとって彼女は何も言わず急に消え去った存在だろう。契約が終わったと知っていたら、璃月を去ったことに対して何も言われなかっただろうに。彼等がAをどう思っているか
責務を投げ出したと失望している？何年も音沙汰が無いから、文献通り死んだと思う？

何にせよ、余罪が増えたのは確かである

「た、ばっ、たわけ…」

「すまない…」

彼女は頭を抱えるが、鍾離ばかりを責めるわけにもいかない。いや記憶通りであれば、仙人へ伝えるのは君に頼むと言ったはずだけれども。彼らの上官はモラクスだからと頼んだはずだけれども

Aは仙人と話せる状態ではなかったとモラクスも了承したのだ。しかし彼も混乱していた。彼女が居なくなることに傷心していたのだ
Aの消えた璃月で「あの方は」と問う仙人に己はなんと答えたか。──なにも答えなかった。ただ目を伏せて首を振った

そのときの彼等の表情は─

「……ひどく、悲しんでいたな」

「それは死んだと思われてる。君の余罪も増えたな、モラクス」

「そうだな…」

しかし死んだと思っているならこのまま会わないのも手…と考えて、それは酷いと自答する。彼にも反対された

「会ってやってくれ。特に魈と甘雨は阻喪して……いや、みなに会ってやってほしい」

「う、うぅん……うん。会うよ」

会いたいとは思うのだ。拒まれたら立ち直れないかもしれないけれど。それでもきっと、後悔だけはしないだろうから