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繋がれた手もそのままに茶館の上階へ登ったAは屏風の奥にある席に座る。鍾離も手を離さず当たり前のように隣へ腰掛けた
彼女は頬杖を付いてその石珀の瞳を眺める


「璃月で、私はどうなっているの」

淡々と落ちた言葉に鍾離はAを見た。ぼうとしている彼女にこれといって表情は無い。だだ繋いだ指先が段々離れていってると気付いて、彼はその手を握り直した


「文献では、お隠れになった…と」

──魔神戦争で櫻花(さくら)の君を亡くしてからというもの、輪癒珠落さまは大変お心を病んでしまった。そうして仙洞へとお帰りになり、それ以降、珠落さまを拝謁できた者はいない。お隠れなさったのだと人びとは口にする──それが、表現こそ違えど殆どの文献に記されている文である

櫻花の君、とAはつぶやく


「お前によく懐いていた仙人だ。お前も目にかけていただろう」

「あぁ…」

その子もきっと、数多の仙人のひとり。櫻花の君なんて呼ばれていたのか


「りんゆ、しゅらく、ねぇ」

鍾離はずっと繋いだままの手の指で、ふーんと面白くなさそうにするAの手背を撫でた。それがあまりに優しい手つきで彼女はむず痒さを感じたが、当の彼が目を伏せていたので何も言えなかった


「癒が廻り、真珠が落ちる。…お前の権能と端麗さを讃えた名だ」

「ふうん、そう。でも死んだんだね、輪癒珠落は」


自分のことだというのに、彼女のあまりの言い様に鍾離は眉を下げる。確かにお隠れというのは死んだという意味だが、それはないだろうと思った。撫でていた手を引いて、頭を垂れるように己の額へ当てる


「…ここにいる。そうだろう」

その、まさしく懇願するような体にAは戸惑った。手を引き抜こうとして失敗に終わる
先程、慌てて追いかけてきてからずっと手を握っていることもそうだが、もしかして──もしかしなくてもと、空いている手で彼の目元に触れた


「モラクス。君、私が去ったのがそんなに堪えたのか?」

「…ここでは鍾離と呼んでくれなくては困る」

「まだひとじゃないから、その名では呼ばないよ」

答えないがこれは当たりだな

ぽんぽんと彼の頭を撫でてAは困り顔で笑った。数拍の間の後、ごめんねと零す


ごめんなど、こちらの台詞だと鍾離は思って。けれど何と返すべきか分からず、何も返さず、ただその手を繋ぎ続けていた

_3→←その夜が明ける前_1



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藤宮(プロフ) - ルアンさん» コメントありがとうございます。この小説をとうぞよろしくお願いします (1月17日 0時) (レス) @page48 id: 75e16aadd4 (このIDを非表示/違反報告)
ルアン(プロフ) - めちゃくちゃ面白いです😭💘 (1月14日 14時) (レス) id: 964364b64c (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:藤宮 | 作成日時:2022年12月29日 5時

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