飛花落葉のように。【原神】 (ページ26)

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「ひとつ、聞きたいことがある」

ディルックが声を上げれば、酒瓶を絹布の海に沈めて上蓋を閉めていたウェンティは、大事そうに箱ごと抱えたまま視線を寄越す

「なあに？」

こてんと可愛らしく首を傾げる様から目を逸らして、数秒の沈黙の後に彼は答えた

「彼女は一体、何者なんだ」

それは極めて、核心に触れる問いである。あのAという少女の全てを暴いてしまうような。かと言ってそれは、何かとても重大な秘密でもない

ウェンティは問いに答えるべきか逡巡して、決めきれなかったのか「うーん」と隠すことも無く正直に悩んでみせた

「本人に聞いた方が良いと思うけど…」

「聞く間も無く行ってしまったよ」

「そうだよねぇ」

うんうんと頷いてソファーに深く腰掛ける
まあ別に、口止めされていなければ、聞かれて困るわけでもない。その上A本人には大して隠す気がないとなれば、言わぬ理由も無いだろう

ウェンティ自身、本当はバルバトスでしたと知られるなど予想外の事ではあったが、バレるのを防げる状況ではなくそれを気にかける余裕もなかった。しかしAがディルックに伝えた言葉を聞くに、彼女にとっては予想できる事だったのだろう。いや、視た(・・)のかもしれないが

その上で酒と伝言を預けたとなれば、これは教えても構わない─ということだろうか

「…君は僕のことも知ってるし、いっか」

居住まいを正してディルックに目を向ける。詩を紡ぐ時と変わらず、穏やかで軽やかに口を開いた

「あの子はね、魔神なんだよ」

どう？驚いた？と花が咲くように笑って見せるが、彼の表情は大して変わらない。あれっ？と今度はこちらが吃驚してしまった

「驚かないの？」

「驚いたさ。ただ…君が風神と知ったばかりだからな」

風神と出会い、巨龍の背に乗り、モンドを救った。ここ最近はまるで詩物語のような日々だったのだ。多少は慣れもするというもの。こんなことを言っては、神からすれば不敬なのだろうけど

──けれども、そうか

「……魔神、だったのか」

身元を調べたところで何も出てこないわけだ。そしてどうやら己は、彼女について本当に何も知らなかったらしい。やはりとてもじゃないが、友だなんて言えないじゃないか

次に彼女と会った時には身の上話でも聞き出そうかと、ディルックは幾らか息を零した