飛花落葉のように。【原神】 (ページ24)

今日:13 hit、昨日:113 hit、合計:39,583 hit

＿10 ページ24

.

旅人を見送ったウェンティは、そのままの足でアカツキワイナリーへ向かった。オーナーであるディルックとトワリンの件で共に居た際、訪ねるよう言われていたのだ

自身を象った七天神像を通り、崖下にある赤い屋根へ向かって風の翼を広げ、足を踏み出した。風が耳へ吹き付け、帽子がふわりと空へ舞踊ろうとする。それを慌てて手で押さえつけていれば眼下の葡萄畑の中に燃える赤を見つけた

人の気配を感じて空へ羽ばたいていく風晶蝶を器用に避けて、とんと羽根のように軽い足取りで地面に立ったウェンティは、軽く手を上げて片膝を付く影に声を掛ける。彼は葡萄の調子を確認しているようだった

「来たのか」

「やぁディルック。美味しい葡萄酒は作れそう？」

「…あぁ。今のところは」

「それは良かった」

汚れている様子もない上着を叩いて立ち上がった彼は、表情も変えぬまま「代金を支払わない客に飲ませる酒はないからな」と言い放つ。ウェンティは口を尖らせて抗議の声を上げた

「つれないなぁ。僕の詩こそが最高のお代でしょ？」

「どうだろうな」

とは言いつつ、詩人の才は認めているのだ。モンドを救った件もある。彼の詩次第では奢るくらいは良いだろうと思わなくもない。この心中を彼に教えてやろうとは思わないが

「それで、僕を呼んだのはどうして？もしかしてお酒をくれるとか期待してもいいかな？」

ね？と、きらきら輝く瞳を見てディルックは息を吐いた。こういう所を見ると、奢るくらいはと思った気持ちも消えるというものだ

「違う。……と言いたいところだが、間違いではないな」

「えっ？」

今度はまんまるに瞠られた瞳が、信じられないと言っていた。次いで感動したかのように薄く頬を染める

「ほんとう？君が？」

「僕じゃない」

「……んん？」

そして次には、瞠目していた瞳は悩めるように細められた。七変化する表情に、なんともまあ、感情豊かな神だと思う。そして僕に、その神への伝言を預けて行った彼女は一体何者なのか…とも

一連の事件が過ぎてからのディルックは、先日、少女が酒場で言った事の意味が分かった気がしていた。テイワットいちの吟遊詩人とはこの風神のことであり、時が来れば分かるとは今日のことだったのだ。そして、再会した旧友はトワリンだろう

ここまで言い当てられては、もう普通の少女とは思えなかった