飛花落葉のように。【原神】 (ページ21)

今日:44 hit、昨日:113 hit、合計:39,614 hit

＿7 ページ21

.

「お前は仙人ではないだろう」

「うるさいぞ…」

もう、と清心茶を飲み干して、言われた言葉を思い出す。悪戯をしたわけでもないのに、後ろめたかったのかと言われれば確かにそうであった。己はあの時逃げたのだと、思わずにはいられなかった。けれど今、彼と話して、わだかまりが解けたように随分と身が軽い

悔やまずとも良いと言われて、そも、許す許さぬの話ではないと気付いて。そうか、許されてもいいのかと心中で繰り返す。そうしてやっと彼女は、モラクスと笑い合える気がしていた。己を許してもいいのだと思った

＿＿君には誰かが必要なんだよ

かつてモラクスの元を離れ、癒えぬ傷を抱えて独り泣き続ける彼女に、風を操る友が伝えた言葉である。彼はAの手を引き、人の営みへと導いた。その中で何百年と時をかけ少しずつ癒えていく傷をみて、彼の言う通り己には人の温もりが必要であったのだと彼女は感じていた

けれど、何かが足りぬとも思っていた。それはきっと、己を傷付けた友の＿モラクス本人の温もりだったのだ。皮肉なものだと思う。それでもまた語り合えるなら、悪い気はしない

私に新しい風を送ってくれた友も、今、あの眷属と語り合えているだろうか。上手くいっているといいが。そこまで考えたところで、コホンと咳をした鍾離に、Aの意識が戻される

「話には…続きがあるんだ」

「続くのか」

てっきり終わったと思っていた。しかし続け様に話されていたら、混乱に追い討ちを掛けられた状態になるのは自分なのだから、一区切りしてくれて助かったというものだ。どうぞと話を促して居住まいを正す

「神の座を降りる為に皆を試す間、璃月に留まっていてほしい」

「ほう」

「俺とともに、この国の行く末を見届けてくれ」

真っ直ぐな瞳がこちらを向いて、揃いの耳飾りが視界に入った。なにかとても重大な役目を仰せつかっている気がして、すぐには頷けない。それは契約かと問えば彼は首を振った

「もうお前を、璃月に縛りつけようとは思わない。断ってくれてもいい。これは…そうだな、頼みというやつだ」

そんなふうに言われて、断れると思っているのか。Aは神を辞めると既に伝えられているのだ。それはつまり、モラクスとしての最後の頼みではないか

この男は…と吐きたくなる息を飲み込んで、けれどやっぱり、ため息は出た