飛花落葉のように。【原神】 (ページ18)

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話したいことの半分を終えて、鍾離はAを見遣る。いっそ目を背けたくなる程に唖然としていた。瞠った目が、ゆらゆらと動揺に揺れている。ふいと視線を下げれば彼女が両手を添えていた茶杯が目について、それが、水面が揺れる程にぎゅっと握り締められている様に、このままでは割るかこちらに投げ付けてしまうかとさえ思った

いや…彼女が魔人戦争時代の気が立っている頃であったなら、既に清心茶を頭から被っていたことだろう

「……冗談だろう」

ひどくか細く、震えた声が空気に溶けるようにして聞こえる。鍾離は何も答えなかった。それが何よりも確かな返事であった。冗談ではないことなど、Aはわかっている。彼がその類の冗談を言わぬことを、そもそもそういったものが不得手であることを

けれど冗談と言ってほしかった。石珀の瞳を弛めて、午後の陽だまりのような暖かさで、笑い飛ばしてほしかった。そうでなければ、そうでなければ。あの子たちは、どうなってしまうというのか

あの夜叉は、半仙の少女は、他の仙人達は。誰よりもあなたを慕っていた。あなたに名を受け、令を受け、契約を受け。あなたの背を見て、あなたの眼差しを見て、璃月を愛した。民を愛した。そのために命を懸けて共にいた

あなたが居てこその璃月。あなたが居てこその契約。それを失って、手放されて、歩いていけというのか。何千年も前を示してくれていた神を見失う迷い子達に、ひとりで進めと

手を離される恐ろしさを、Aは知っている。知っているから、残酷だと思ってしまう。鍾離が悩みに悩み下した決断であり、彼が選んだ道だとしても

いかないで。そばにいて。まだ…生きていて。思うことは多い。しかし、それをどうして彼に言えようか。残された者が思うことなど、私も彼も、嫌という程知っている。己とて、彼を残して行ったというのに。今度は自分が、残される側に立っただけのこと

やがて彼女は、細く長く息を吐いた。瞼を閉じて、開いて。感情の制御に努める

「…言いたいことは…多いけれど、取り敢えずは理解したよ。君の国だもの、すきにするといい。…うん。言いたいことは多いけれどね」

その言葉にひとまず安堵の息を零した鍾離は、緩めかけた表情をはたと止めた。すきにするといいと言うには、Aの表情はひどく暗いものだった